コラム COLUMN

知財担保融資の将来性〜中小企業の知的資産経営と金融機関〜

更新日 : 2016.03.18

今日はメンバーで、”パテント2015 Vol. 68, No. 5, 90-99「知財担保融資の将来性〜中小企業の知的資産経営と金融機関〜」(東京大学大学院/技術経営戦略学 藤原 綾乃博士)の記事で勉強会をしました。知財担保融資の2011年頃の現状と、金融関連事案における今後の知財の関わり方について有用な知見が得られます。

著者は、2011 年 11 月に全国 158 の信用金庫に対してアンケートを実施し(回収率 22.8%)、その結果に基づいて分析をされています。東海が他地域の倍近くである点は面白いと感じました。調査時点では東北,甲信越,九州地方など知的財産権に関する案件自体がない所もあり、地域的偏在性が高いようです。以下に興味の湧いた点を列挙しておきます。

・知的財産権担保融資の実績はこの 10 年間でほとんど増えていないものの,良い条件であれば行いたいという信用金庫は全体の 4 割程度も存在する。

・中国の中小企業では政府等が主導する形で,知的財産権担保融資を積極的に実行している。

・中国では 2006 年 1 月から 2011 年 6 月までの間に全国で約 3 兆 9863 億 6 千万円の知的財産権担保融資の実績がある。

・日本では日本政策投資銀行による知財担保融資の実績は,310 件,210 億円(1995 年〜2008 年 3 月の累計 )、民間金融機関による知財担保融資は 26 件,21 億円(累計ではなく,2007 年 3 月時点の残高ベース)。

・アンケートに回答のあった36 庫のうち,知的財産権担保融資を行ったことが「ある」と回答した信用金庫 1 庫、「ない」と回答した信用金庫が 35 庫。

著者は金融機関の知的財産権担保融資に対する取り組み姿勢についても、今回のアンケート調査(信用金庫)と、10年前の2000年での先行研究である日本商工経済研究所のアンケート調査(政府系金融機関,都銀,長信銀,信託,地銀,第二地銀,在日外銀,信用金庫)とを比較しています。これによると、「(知的財産権担保融資を)あまり行うつもりはない」との回答が,2000 年には 19% であったのに対し,今回2011年の調査では 50%に増加しており、全体的にみれば、この 10 年間で知的財産権担保融資に関して消極的な金融機関が増えたとのことです。知的財産権担保融資に消極的な理由として、知的財産に対する評価や目利き,将来性などについての判断が難しい、金融機関では文系出身者の採用が多いということを挙げています。

その一方で、中小企業が知的財産を活用できるようにするための信用金庫による支援活動として、「知的財産や技術の調査や評価」(6 庫)、「知的財産戦略策定のコンサルティング」( 4 庫)、「中小企業経営者等を対象とした知的財産に関するセミナーの開催」( 4 庫)、「弁理士等の専門家の無料相談」( 3 庫)、「弁理士等の専門家の紹介」(8 庫)というデータもあります。

2000年当時の知財を担保にして融資するという考え方から、知財の啓蒙・調査・評価・コンサルティングを通して融資につなげるという、昨今の「事業性を評価」に基づく金融支援という考え方にシフトしていることがこの藤原博士の記事からも読み取れます。