コラム COLUMN

三位一体による特許情報の戦略的活用について

更新日 : 2019.11.22

昨晩は弁理士会研修で、鶴見隆氏の「三位一体による特許情報の戦略的活用について」を聴講してきました。鶴見隆氏は旭化成でウイルス分離膜やアクリル系繊維(カシミロン)などの開発に携わり、その後知的財産部部長となられた後、東京農工大教授を経て、現在(株)戦略データベース研究所代表を務められています。この日のご講演は、先日ノーベル化学賞を受賞された吉野彰氏(旭化成名誉フェロー)のリチウムイオン二次電池(LIB)の特許に関するエピソードも交えて、大変面白く有意義なものでした。

ここでいう特許情報の活用における「三位一体」とは、研究者・特許担当者・情報担当者の協力体制における三位一体のことであって、2000年代初頭から経済産業省や特許庁が唱えている知財立国のための事業戦略・研究開発戦略・知的財産戦略の「三位一体」とは異なる意味合いで用いられています。研究目的や技術知識を持っている研究者と、目的に応じた調査に長けた情報担当者と、権利関係の判断に長けた特許担当者との三者の協力体制を構築することで、初めて目的に適った情報の収集と分析が可能となるということです。まだ誰もやっていない独創性のある分野を自分で切り拓いていくためには特許情報調査が重要であることを、旭化成知財部長時代の具体的な例とエピソードを交えて、わかりやすく説明していただけました。

研究テーマ設定と展開にあたり、特許情報の遡及調査を行うことはもちろんのこと、研究を続けるにあたっても継続調査を行い、それを商用データベースツールを用いてストックするLocal Database(LDB)を構築する。研究テーマを事業戦略へと発展させていくにあたり、他社特許情報との用語の統一や事業戦略上必要な情報(技術・製品分類、自社・他社方針等)を付加して整理したStrategic Database(SDB)を構築して戦略データベースとする。こうした一連のデータベース構築が90年代末から旭化成では行われているとのことです。社長や事業部長らも巻き込んで知財経営マインドを社内に浸透させていった手腕は見事なものです。

吉野彰氏のリチウムイオン二次電池(LIB)の開発秘話も知財部の視点から紹介していただけました。基本的には化学素材メーカーである同社が、当時まだLIBの市場開発がなされていなかった時点で事業化するにあたり社内経営陣でも喧々諤々だったそうです。東芝と合弁企業を設立して事業化を開始したのですが、当時からLIBの第一人者であったGoodenough教授(吉野氏とともに今年ノーベル化学賞受賞)もLIBの特許を有しており、その特許問題やサブライセンス交渉の興味深い裏話を聞くことができました。ほぼ同時にソニーでも開発されていたLIB開発の事情も紹介されていました。そして旭化成におけるLIBの基本コア特許成立の事情等々、その場にいなければ知ることのできない話をいろいろ聞くことができ、充実した研修会でした。

中国 深圳市で知的財産権金融連盟が設立

更新日 : 2019.11.12

最近、深圳知的財産金融連盟が深圳市で発足し、深圳知的財産金融公共サービスプラットフォームの運用が開始されました。 このサービスプラットフォームは、知的財産をコア資産として、担保融資ローン、株式投資、債券発行、保険サービスなどのさまざまなサービスを提供するものです。深圳にある20,000を超えるハイテク企業に、各種知的財産権の価値評価などを支援するサービスを提供することを目的としています。

わかりやすく言えば、深圳市という特定地域内で、金融機関と評価人がタッグを組んで中小企業に事業資金を提供する仕組みです。ここでいう評価人とは、弁理士とは別の国家資格であり、評価人は弁理士と兼務はできないそうです。中国では評価人育成プログラム等の知財評価教育体制が進んでいることについては、このコラムでも紹介しました。金融機関は、中小企業から知財担保融資等の申込みを受け付けたら、その地域の評価人に価値評価を依頼する必要があり、評価人手数料は金融機関が負担する、というスキームのようです。国(又は地方政府)が全面的に後押ししていることから、すぐに軌道に乗るスキームであろうと予想されます。

今回の金融連盟は、国任財産保険、平安銀行、国信証券、深圳市創新投資集団、横琴人寿保険、法知金集団の6社が資金を出し合い、その中から評価人の手数料を支出していくのだと考えられます。リスクヘッジがメインでしょうが、融資先の中小企業が将来的に知財で収入を得れば、金融連盟に還元する条件が付いていたら、投資目的も多少含まれている可能性もありますね。(出典:国家知識産権戦略網2019年11月4日)

企業による「経営デザインシート」の利用広がる

更新日 : 2019.10.29

企業による「経営デザインシート」の利用が広がっているとして2019/10/28付の日経新聞に紹介記事が掲載されていました。経営デザインシートをM&A、新規事業の開発、事業承継などに活用する最新の動向が紹介されています。経営デザインシートは、内閣府が2018年5月に公表したもので、知財戦略本部(首相官邸)のウェブサイトからA3判1枚紙の用紙をダウンロードすることができます。経営者や幹部自らが、用紙の上欄に経営理念を、左側に自社の従来のビジネスモデルを、右側に将来のビジネスモデルを記入し、現在と将来と対比して、変化に必要な戦略や資源を割出して、下の欄に従来の課題とこれからの解決策を書き込んでいくのです。様々な活用例・作成例が同ウェブサイトに紹介されています。企業のビジネスモデルは知的財産と結びつくことにより価値を生むという観点から、経営デザインシートを、将来の企業変革を具体的に構想するためのツールとして利用することが期待されています。難しく考えずに、書ける欄から記載することがお勧めです。

特許庁、中小企業の事業承継について知的財産を切り口とした支援を公募中

更新日 : 2019.10.21

特許庁が、中小企業の事業承継について知的財産を切り口とした支援を公募しています。

この事業は、経営資源として知的財産に焦点をあてて、中小企業の事業承継における知的財産の取扱いを現状分析し、知的財産の承継にどのように取り組むべきかを明らかにすることを目的としており、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が特許庁から委託を受けています。実施にあたって、事業承継を知的財産ないし知的資産を切り口として支援を受ける中小企業を募集し、専門家が『自社が保有する知的財産(知的財産権、ノウハウ、ブランド等の強み)を「見える化」「磨き上げ」すること』について支援を行うとのことです。

経営・知財一体で成長を ・・・ 日経新聞「経営の視点」より

更新日 : 2019.10.14

本日の日経新聞の渋谷高弘編集委員による「経営の視点」に、「日本の特許戦略、40年進まず 知財・経営一体で成長を」と題して知財経営・IPランドスケープに関する記事が掲載されていました。メーカーの知財戦略が70年代の「ひたすら特許を出願し保有数を増やす」から40年間、進化しなかったというのです。アジアの新興国が、日本企業が出願していた大量の特許情報から製造ノウハウを取得し、自社工場で模倣し続けたために、多くの特許を有していた日本の大手電機企業は総崩れとなりました。その一方で、欧米半導体企業は自社製品の性能向上に欠かせない技術を、あえてアジアの企業に無償開放し、その上で半導体を供給したというのです。単純な特許取得戦略とは異なり、アジア企業を「利用」して、自社のコアとなる技術ノウハウはクローズしたまま自らが栄える事業モデルを、技術と契約で築きあげていた。まさにオープン・クローズ戦略を駆使した知財戦略といえます。いかに経営と知財が一体となることが重要かを、この記事は唱えています。現状を変えようとブリヂストン、旭化成、ナブテスコの知財部門が「IPランドスケープ」を経営陣に提供し始めているとのことです。知財経営とIPランドスケープの話は、渋谷氏の編著になる「IPランドスケープ経営戦略」(日本経済新聞出版社、2019年3月)にも記載されています。