コラム COLUMN
書籍の紹介 「入門 知的資産の価値評価」
更新日 : 2016.05.13
知財価値評価の本を紹介します。「入門 知的資産の価値評価」山本大輔+森智世、 東洋経済新報社(2002年)です。欧米の会計基準やのれんの話が第1章に来るので、国際会計になじみのない者には初めはとっつきが悪いのですが、次章以下、読み進めていくと、きわめて示唆に富んだ得るところの多い本であることがわかります。知的資産、技術、ブランドの価値評価について、いくつかの実例を交えて解説がされています。その昔、知財担保融資のための知財価値評価がクローズアップされた2002年当時の本ですので、時事的な内容は古くなっているかも知れませんが、今読んでも有意義な本だと思いますので、備忘録的に気づいたことを少しだけ列挙しておきます。
・予測のキャッシュフローと実際のキャッシュフローとが乖離することによるリスクを、キャッシュフローの予測値と割引率の両方に反映させるのではなく、どちらか一方のみに反映させるという考え方がある。つまり、割引率としてはリスクフリーリスクのみとするという考え方があること。
・製薬業界の無形資産の開示(ディスクロージャ)は詳細で、研究開発、人材開発の多くが定量化されていること。
・製品の性能を高める革新的な技術であっても、最終製品が高性能を必要としない場合、技術に価値はない。
・・・これは技術の円熟化・コモディティ化とも言われています(本書ではこの用語は使われていません)。
・どんなに精緻な特許マップを作ったとしても、特許価値の定量化に直接結びつく情報はなかなか得られない。
・開発ステージ別のベンチャー企業の要求収益率調査結果や日本のベンチャー企業の推定要求収益率を紹介している。
・・・このベンチャー企業の要求収益率を、CAPM理論における資本コストWACCの代わりに適用するようです。ベンチャーの知財関連の資本コストに触れた日本語の書籍はこれしか見たことがありません。
・定性的な要素のスコアリングによりライセンス対価を決定する方式を具体的に説明している。
・・・この記載は極めて実務的な示唆に富んでいます。
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