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書籍の紹介 「日本発ブランド価値評価モデル」

更新日 : 2016.11.11

今日はブランドの価値評価に関する書籍を紹介します。

「日本発ブランド価値評価モデル」広瀬義州・吉見宏著、税務経理協会(2003)です。これは経済産業省の産業政策局長の諮問機関として組織された経済産業省企業法制研究会・ブランド価値評価研究会が、2002年6月に成果として公表した「ブランド価値評価研究会報告書」のいわば逐語解説書です。同報告書そのものも巻末に掲載されており、本書は著者である広瀬義州氏(当時、早稲田大学教授)と吉見宏氏(当時、北海道大学助教授、現在副学長)のQ&Aの対談形式を読みやすく、使い勝手が良いようにまとめたものです。

巻末の報告書を読んでから本文を読むのが本来の本書の使い方なのでしょうが、先に本文から入った方が、報告書の中の数式の意味や使い方がわかってよいかもしれません。広瀬先生らの価値評価の考え方についておおまかに説明しましょう。

まずブランド価値の構成要素を3つのドライバー(決定要因)に分解しています。それぞれプレステージ・ドライバー(PD)、ロイヤルティ・ドライバー(LD)、エクスパンジョン・ドライバー(ED)と称しています。耳慣れない言葉なので、これらを先に説明します。

プレステージ・ドライバー(PD)・・・同業他社よりも安定した高い価格で製品を販売できることに着目したファクターです。価格優位性を表します。ブランド品はノンブランドの製品よりも高い値段で売れるという前提に基づいています。PD自体が細かい数式で表現されているのですが、大まかに言えば、価格優位性のないノンブランドの基準企業(ゼロ企業)との比較から超過利益率を求め、それに当社の広告宣伝費率を掛け、これを当社の売上原価に掛けています。数式から判断して、このドライバーPDの単位は通貨単位、つまり「円」です。

ロイヤルティ・ドライバー(LD)・・・リピーター顧客が存在することにより安定した販売量を確保できることに着目したファクターです。ここでいう「ロイヤルティ」とは”loyalty”、つまり『忠誠心』のことを指しています。『実施料』を意味する”royalty”とは異なりますので注意してください。顧客がいわば忠誠心を持ってリピーター購入者になるということです。LDも数式で表現されていますが、言葉で言えば、売上原価の平均値μでその標準偏差σを割ったもの(変動係数:σ/μ)を1から引いたもの(1-σ/μ)です。このドライバーは比ですので、単位はありません。リピーター顧客が安定して存在すれば変動が少なくなるのでLDは1に近づきますが、顧客が安定しないと(σが大きくなるので)1より小さくなります。

エクスパンジョン・ドライバー(ED)・・・本来の業種・市場にとどまらずに、類似業種、異業種、海外等の他の地域に進出することに着目したファクターです。ブランドの拡張力に着目するものです。EDも細かい数式で表現されていますが、大まかに言えば、海外売上高の成長率と、本業以外の売上高の成長率の平均を取ったものです。海外や異業種で成長していけばEDは1より大きくなります。このドライバーも比ですので、単位はありません。

そして著者はブランド価値(BV:円)は、これら3つのドライバーPD、LD、EDと、割引率rの4つの変数の関数であるとして

で表されるというものです(これ以降の展開式は省略します)。rは割引率ですが報告書中ではリスクフリーレートを採用しています。円の単位を持つプレステージ・ドライバーPDを割引率rで割っている右辺第1項の式の形から判断すると、PDの値が1年後、2年後、3年後と永続的に続くものと仮定して各年度分を現在価値に割り引いたものを、無限等比級数の和の公式を用いて合計したものと考えられます(企業価値評価における残存価値と同じ考え方です)。

上記の式は簡単に言えば、ブランド価値(BV)とは、同業他社よりも高い価格で売れた売上原価のうち超過利益分と広告宣伝費に関連するもの(PD)を求め、これにリピーター顧客による安定性(LD)を掛け、さらに海外・異業種成長率(ED)を掛けたものが、永続的に続くとして、現在価値に割り引いたものであるということです。