コラム COLUMN

諸外国における知財価値の評価に関する調査研究報告書

更新日 : 2018.06.14

今年(平成30年)の2月に「諸外国における知財価値の評価に関する調査研究報告書」という報告書が特許庁ウェブサイトに掲載されました。これは平成29年度 特許庁産業財産権制度各国比較調査研究等事業の一環としてPwCコンサルティング合同会社が作成したものです。

この報告書の要約によりますと、「本調査では米国・中国等の諸外国における知財価値の認識・評価の実態を明らかにした。調査を通じて、知財の「見える化」や「評価」の手法・ツールの面で、我が国と他国において顕著な差は見られない。他方、知財の活用目的・手段の多様化に応じて「見える化し、取引・流通」の拡大が一部に見られることが明らかとなった。」とあります。つまり知財価値評価の進んでいる諸外国においても、「知財の創造や活用を促進する」ための手法やツールで、日本でまだ導入していないものがあるわけではないというのです。ではなぜ、諸外国(特に米国・中国)では「知財の価値が高い」との指摘がなされているのかについて、同報告書は以下のように簡潔にポイントを挙げています。以下に、上記の報告書の要約の「本調査のポイント」からの抜粋を挙げておきます。

・諸外国の先進企業は、知的財産の価値について「事業価値への寄与(売上利益向上)」に加え、「企業価値への寄与(株価・企業の成長力の向上)」を認識。知財をバリューチェーン全体の中で収益を生むドライバーとして認識し、新事業参入のツール、市場形成やエコシステムを形成する「経営資源」として活用し尽くす戦略を有する。

・その戦略の実行(知財戦略上の多様なオプションの実行)の中で、企業は多様な観点から知財価値の見える化を行ない、企業を含む様々なプレイヤー(NPE等)が知財の取引・流通を活発化し、知財の評価機会を生み出している。

・加えて、中国を中心に補助金制度等の影響により、知財価値に一定のプレミアムが生じている。

報告書では、米国・中国・韓国・シンガポール・ドイツの諸外国において、知財の見える化、知財の取引時の評価、知財流通の状況という3つの論点からヒアリング調査を行っています。各国共通的に実施されている知財価値評価は、基本的には定性価値評価が中心であり、金銭価値換算場面は限定的であるとの声もあったとのことです。報告書でも、価値評価が生じる機会として、各主体ごとに知財価値表の状況をまとめています:企業(その支援を行う弁理士等を含む)では知財の見える化のための手法として、知財の強さの定性評価(例えば、S/A/B/Cの4段階評価)を行ない;特に金銭価値換算は実施していない;M&A前の知財価値評価は与信中心の定性評価であり、インカムアプローチでは事業価値のみを把握し、知財の個別評価は実施していない;投資家や金融機関では、知財権のみを担保とした融資はほぼ実行されていない。

といったものでこれらの共通点を見ると、企業体間の関係からは、知財価値評価や知財流通に関する表向きの表現は違えども、諸外国も日本とさほど状況は違わないように思われます。これに対し、上記報告書は、諸外国の政府・公的機関が実施する見える化・取引・流通に関する施策に大きな差異が存在し、特に中国・韓国におけるベンチャー企業向けの補助金・税制優遇などの支援策が、企業の知財活動に影響を及ぼしていることを明らかにしています。

90ページほどの報告書ですが、表によるまとめを用いて記載を工夫していますので、諸外国の状況を今後深堀するための参考になると思います。