コラム COLUMN

知的財産デュー・デリジェンスの実態に関する調査研究報告書

更新日 : 2018.07.05

今年(平成30年)の3月に「知的財産デュー・デリジェンスの実態に関する調査研究報告書」が特許庁ウェブサイトに掲載されました。

これは平成29年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究のテーマの一つとして、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所が作成したものです。知財DDに関連する国内外の書籍・論文等の公開情報調査、日本国内の企業やアドバイザリー合計数百者に対する国内アンケート調査、そしてM&A等における知財DDの実施状況に関する国内ヒアリング調査を実施した結果をまとめています。

デュー・デリジェンス (DD)とは、「出資者 や提携を検討する事業者等(以下、併せて「出資者等」といいます。)の側 において、対象会社のリスク評価及び価値評価のための調査と検証を行うこと」を言います(同報告書p.37)。そして代表的な DDとして、法務DD、税務DD、ビジネスDD、財務DD、人事DDなどがあるなか、対象会社の知的財産活動について の調査 と検証 を行うことを知的財産デュー・デリジェンス( 知財 DD)と呼んでいます。例えば、事業展開をするにあたって第三者の特許権を侵害してしまうリスクの事前調査(Free-To-Operate調査、略してFTO調査)や、逆に他社にライセンスを供与できるという価値・アドバンテージを調査検証することが重要になってきます。

同報告書の要約版(p.14~16、18)では知財DDのプロセスを以下の5つのステップに分けています(一部表示を改変)。

Ⅰ.対象会社の価値源泉となる技術等の分析・・・企業情報データベース、有価証券報告書などを利用。

Ⅱ.対象技術等の利用可能性・利用可能範囲・・・出願書類、登録原簿、ライセンス契約書などを利用。

Ⅲ.対象会社の知的財産関連紛争の調査・・・訴訟記録、紛争一覧などに基づく。

Ⅳ.第三者権利の侵害リスク調査(FTO調査)・・・対象会社保有知財一覧、先行技術文献などを利用。特定技術を事業に利用した際に起こり得る、他社の知的財産権に対する侵害リスクの確認です。

Ⅴ.ガバナンス調査・・・知的財産管理規定、職務発明規定などを利用。出資等の際に対象会社において知財をどのような方針・体制で管理し、取り扱っているかについての調査です。

Ⅵ.価値評価・・・特許明細書、先行技術調査などを行なって評価。出資等の主たる目的が知財の取得である場合、知財の価値分析が行われるケースがあります。

この調査研究報告書の注目すべきところは、知財DDの標準手順書(SOP)及びその解説資料です。これは、「事業者がM&A等の際に、知的財産活動の評価のために一般的に必須とされる調査事項や、そのために必要な資料を把握できるようにすること」を目的として作成されたということです。実はこの標準手順書、作成にあたって「GitHub」というバージョン管理機能をもつWeb上の共同作業プラットフォームを使用して、オープン検証を実施して取りまとめられているのです。簡単に言えば、インターネット上のオープン環境で、多くの方々から、標準手順書の原稿の具体的な修正案を公募したのです。興味ある人がみんなでWeb上で編集したということです。「みんなつくろうsop」というわけです。

ところで、この知財DDのプロセスを見て気づいたのですが、実は、上記プロセスのステップⅠ~Ⅳ は、そのすべてではないにせよ、知財価値評価のプロセスの一部でもあります。特にステップⅠでは、価値源泉となる技術としてコア技術の特定をすることが知財価値評価の最初のステップになります(もっとも通常はお客様の方で特定のコア技術たる特許を指定してくださる場合がほとんどですが)。そのため私たちの知財価値評価サービスでは、コア特許技術の特定・評価のために、企業情報データベース、有価証券報告書だけでなく、出願書類や技術者へのインタビューを行なうこともあります。また、お客様によっては自社の知財部の管理体制の評価に興味をもたれる方がいらっしゃいます。「知財」価値評価ならぬ「知財部」価値評価とでもいうのでしょうか。これはちょうど上記のⅤのガバナンス調査に相当します。したがいまして、私たちの知財価値評価サービスは、そもそもⅠ~Ⅴのステップを踏んで進めていくのです。その点で、この「知的財産デュー・デリジェンスの実態に関する調査研究報告書」は知財価値評価に通じるものがあり、興味深いものがあります。