コラム COLUMN

中国電力、特許の価値の定量的評価額を毎年発表

更新日 : 2019.04.05

中国電力株式会社は2008年度から毎年、IRの一環として「知的財産報告書」を発行しています。その報告書には、前年度の時点で存続している特許を対象に再評価(洗い替え)し、特許の価値の定量的評価を行った結果が掲載されています。例えば、2018年度の報告書(2019年2月発行)では、2017年度時点での評価額が164億円(前年度比5億円増)でした。日刊工業新聞電子版(2019年3月5日付)でも記事になっていましたので、ご覧になった方もいらっしゃることでしょう。

特許の価値の定量的評価は知財リスクを回避するための取組みの一つとして行われているようです。初期のころの報告書では、特許の価値の評価額を差止リスク回避額と、ライセンス料等支払リスク回避額とに分けていました。差止リスク回避額とは、新技術が特許で担保されていることにより競合他社から差止めされるリスクを回避できている金額です。ライセンス料等支払リスク回避額とは、競合企業が当該特許を保有していた場合に競合他社に支払うこととなるライセンス料を回避できた金額です。

最近の報告書では、差止リスク回避額を「特許技術が関係したコスト低減額」と言い換えています。これは、技術を特許出願することで事業活動の自由度を確保できていることの金額効果とのことです。

最近の報告書ではまた、ライセンス料等支払リスク回避額を「特許の価値の定量的評価額」と表現を変えています。これは、対象技術が特許で担保されていることで自社のみがメリットを享受できている金額効果とのことです。これは、「特許技術が関係したコスト低減額」に特許技術の寄与度や特許の強さなどを加味して算定しているとのことです。日刊工業新聞に掲載されていた金額はこの金額です。

「特許の強さなど」は報告書では発明の「独占排他性」とも表現されており、特許庁の「特許評価指標(技術移転版)」をベースに事業内容に合う評価項目を採用しています。具体的には、2018年度の報告書では、特許評価指標の権利化状況・権利としての強さ・代替技術に対する優位性の3つの項目を取り上げ、各項目ごとに1~5点のスコアを付け、15満点に対する割合%を「独占排他性」の係数としているようです。

特許技術の寄与度(%)と独占排他性(%)の両係数は個々の評価対象特許ごとに異なるはずですので、それぞれの特許について「特許技術が関係したコスト低減額」を求め、それに「特許技術の寄与度」の係数および「独占排他性」の係数を乗じてそれぞれの評価額を求めて合計していくのだと考えられます。両係数の積はこれまでの報告書からは35~44%の範囲に入っていることがわかります。

「特許技術が関係したコスト低減額」をどのように求めるのかまでは報告書からはわかりませんでしたが、11年も前からIRの一環として知的財産報告書を作成し、しかも自社特許の価値の定量的評価(金銭的評価)を実施して開示している中国電力知財部の慧眼と努力に感服しました。なお中国電力は特許登録件数がエネルギー業界で1位とのことです。