コラム COLUMN
書籍の紹介「IPランドスケープ経営戦略」
更新日 : 2019.09.17
今日紹介する本は、「IPランドスケープ経営戦略」渋谷高弘・IPL経営戦略研究会 編著 日本経済新聞出版社(2019年)です。日本経済新聞編集委員であり、知的財産分野の取材、執筆、講演等の活動実績のある渋谷氏が第1部の「知財経営を目覚めさせるIPランドスケープ」の執筆を担当されています。
かつて知財立国を宣言した日本において大量の特許を取得すべく「特許出願のノルマ」を課していた企業は、本来門外不出として秘匿しておくべきだった営業秘密やノウハウまでも特許出願し、公開してしまいました。公開特許公報は模倣者にとっての「最高の教科書」だったというのです。その結果、韓国、台湾、中国などの後続企業が特許庁データベースにアクセスし、さらには日本人技術者を雇って、日本の「匠の技」を吸い取ってしまい、それが原因の一つとなって日本の電機産業は衰退してしまったというのです。一方、欧米企業、例えばインテルは、自社のMPUに適合したPCIバスを搭載したマザーボードの仕様を公開し、製造権を与えて、世界中に大量に普及(オープン戦略)させながらも、コアとなる知的財産権や技術改版権は自社が独占しておき、使用者が他社のDRAMを使用すべくマザーボードの仕様を改版しようとしてもそれを禁止する契約(クローズ戦略)により、インテルの製品を使い続けるようにさせたのです。知財と契約で取引先を縛るというオープン&クロース戦略を採ってきたのです。このオープン&クロース戦略の分析は、小川紘一著「オープン&クローズ戦略」翔泳社(2015年)でなされており、渋谷氏はその内容と要旨をわかりやすく、くだいて説明しています。
日本では経営と知財との距離が非常に遠く、「発明・特許あって、知財経営なし」と警告し、その打開策として知財活用に欠かせないIPランドスケープを紹介しています。最近話題の経営デザインシートや知財ビジネス評価書等の知財を活かした資金調達のトピックにも触れています。
本書の第2部では共著者による「ケースで見るIPランドスケープ分析」として、アップル、グーグル、三井化学等のケーススタディを掲載しています。
IPランドスケープ、知的財産経営がホットな話題となっている今、読んでおきたい一冊です。
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