コラム COLUMN

弁理士会研修 「知財価値評価の現状と、知財経営センターにおける知財価値評価への取組み」

更新日 : 2018.08.03

昨日は知財価値評価に関する弁理士会研修に参加しました。

日本弁理士会には各種の委員会や付属機関があります。知的財産経営センターもその一つで、知財経営をワンストップで支援することを目的として、知財経営に関連する各種委員会・附属機関を統合した組織として2017年4月に新設されました。これはさらに3つの本部に分かれ、そのうちの一つが知財価値評価事業本部です。ここでは知財価値評価の手法を研究し、弁理士による知財価値評価業務を支援しています。昨日の研修はこの知財価値評価事業本部のメンバーによる座学研修でした。知財経営センター概要、評価人候補者制度、知財価値評価の概要、知財ビジネス評価書、経営デザインシート、米国における知財評価の動きについてお話を伺いました。

M&Aの会計処理では資産額と売却額の差を、昔は「のれん」と一括りにして呼んでいましたが、新しい会計基準の下では、のれんのうち定量化・可視化・数値化できるもの(例えば特許・商標・ソフトウェア等)は数値化して財務諸表に載せることになっています。しかし会計処理の世界で行われる知財の価値は超過収益法といって、経済的利益から人的資源、顧客リストなどの有形資産から期待される貢献利益を差し引いて残ったものが知財の価値に相当するであろうという算出法を採っているので、ある意味ざっくりと計算しているのが現状とのことです。知的財産を一つひとつ中身にまで立ち入って見ているわけではないのです。知的財産の一つひとつ、例えば特許技術の内容にまで立ち入ってその価値を判断し、経済的価値に反映させるのは、弁理士ならではの仕事だと言えます。

2000年の初め頃、知財金融という考え方がありました。このころの知財金融は知財、商品在庫、売掛金などの動産を担保として融資をするという考え方で、経済産業省も推奨していました。しかし知財を担保にとっても、それ自体換金がほぼ不可能で、その価値評価も難しく、また金融庁側の協力も得られなかったことから、知財金融は下火となってしまったのです。そうしたなか、知財金融が新たにその意味を変貌させて再開した背景には、2013年の政府による日本再興戦略(JAPAN is BACK)において中小企業・小規模事業者の革新、地域金融機関による地域密着型金融の促進が挙げられます。これを受けて金融庁が平成26年(2014年)に、金融モニタリング基本方針として地域金融機関が外部専門家等を活用しながら企業の事業性(つまり企業の事業の内容や成長可能性)を評価したうえで必要な支援を行っていくべきであることを唱え、そして平成27年(2015年)に、金融行政方針において地域の経済・産業を支えていくために事業性評価を行って地方創生に貢献すべきことを再度唱えたのです。一方、特許庁も中小企業対策の一環として、平成27年度から、金融機関からの申請によって知財ビジネス評価書を作成し金融機関に提供する支援を行い始めました。この知財ビジネス評価書は金融機関の支援としてだけではなく、企業のいわば診断書として機能し、企業支援・事業支援につなげていくことができるのです。金融機関に対するアンケートによれば、行員たちも技術内容を把握した上で積極的に支援に関わりたいというニーズがあることがわかり、このニーズにマッチした制度であるということができます。

平成30年5月に内閣府知財戦略本部が知財のビジネス価値評価検討タスクフォースを立ち上げ、経営における知財の位置づけの明確化を目的として報告書を作成しました。この話は3月に本コラムでも取り上げました。5月に発行された報告書の中で、「経営デザインシート」という、一種のフレームワーク的なシートの作成を提唱しています。事業のビジネスモデルの設計と見直し等のメリットを狙ったものです。その詳細は9月に行われる内閣府参事官による研修会で話がされる予定で、このコラムでもまた取り上げていきたいと思います。

米国では企業価値のうち無形資産が占める割合が有形資産に比べ圧倒的に大きくなってきています(2015年で84%)。米国の無形資産評価は会計士やASA(米国鑑定士協会)が行っています。ASAによる資産評価についてはこのコラムでも、2016年の2月10月に触れています。無形資産に対する注目度は日本とは比べものにならないほどなのだそうです。

今回の研修は知財価値評価の評価人候補者だけを対象としたものではなく、広く弁理士一般にまで対象者を広げています。そのためもあってか、今まで本コラムでも折に触れて言及してきたトピックをいわば価値評価の初心者にもわかるように話がされました。知財価値評価のすそ野がまだ広がっていないため、少しでも多くの弁理士に本業務に関心を持ってもらおうとするための研修であるというわけです。

このコラムも知財価値評価のすそ野を広げることに少しでも役に立てれば光栄です。