コラム COLUMN

青色LED事件の特許権の価値評価鑑定書①~定性的評価としてのスコアリング

更新日 : 2016.08.17

先日の書籍の紹介では、青色LED事件(東京地裁)における特許権価値評価の鑑定書に言及しました(ベンチャーラボ&ASG鑑定書)。書籍の巻末に実例分析特別資料として添付されているものです。これには定性評価のためのスコアリング、実施料率の検討、割引率の設定等、インカムアプローチのパラメータ設定に至るまで、特許価額(経済的価値)評価の実際の手順が詳細に記載されています。今日はこの鑑定書で用いられている定性評価のためのスコアリングについて取り上げてみたいと思います。

本鑑定書は、評価の目的を当該特許が有する経済的価値を中心とした当該特許の総合的価値評価を行うことであるとしています。まず本特許を特許権・技術・市場性・事業性から個別精査評価を行なっています。これは特許権の定性的評価に該当します。

まず、評価シート(ワークシート)にフェイス項目(書誌的事項の項目)を記載し、権利固有評価および事業性評価を行っていきます。権利固有評価では、ワークシートとして、特許の権利化状況・権利の存続期間・発明の技術的性格・権利としての強さ・抵触可能性・代替技術との技術的優位性・発明の実証度合いという項目のそれぞれについて、固有の視点から1~5点のスコアをつけています。事業性評価では、ワークシートとして、事業障害(事業実施に当たって)・特許の事業への寄与度・代替技術出願の可能性・障害対応の容易性・市場規模とマーケットシェアについて・製品寿命いという項目のそれぞれについて、固有の視点から1~5点のスコアをつけています。

上記の定性的評価の手法は、評価項目の文言から判断して日本特許庁が作成した「特許評価指標(技術移転版)」(平成12年12月)を利用していることは明らかです。特許評価指標(技術移転版)は先月のコラムで紹介していますので参照ください。特許評価指標(技術移転版)には権利固有評価や事業性評価のほかに、移転流通性評価という項目群もあるのですが、本件事案が職務発明の相当の対価を求めるという評価目的を考慮して、評価対象項目からはずしたものと思われます。

鑑定書は、この特許評価指標(技術移転版)に則って権利固有評価と事業性評価のそれぞれについてスコアリングとランク付けを行い(それぞれ91点のaランクと90点のaランク)、その平均を取って、総合評価としてスコアが100点満点中90.5点で総合ランクをAと判定しています。当該特許権についてかなり高い定性的評価をしたことがわかります。