コラム COLUMN

弁理士による知財価値評価のポイント②~スコアリングと特許評価指標について

更新日 : 2016.07.08

昨日のコラムでは、知的財産の金銭的価値評価には、対象となる特許の内容に基づく説得力のある理屈を構築し、それを数値に反映するための理屈が重要だと述べました。一般的に知的財産の定量的評価といえば知財の金銭的(経済的)価値評価を指すものとして受け取られます。しかし、「特許の内容に基づく説得力のある理屈を構築し、それを数値に反映」して、数値の信頼性を担保するためには、知財の定性的評価をきっちりと行い、それに基づく定量的評価でなければなりません。これまでのコラムでは、定量的評価を見据えた定性的評価として、スコアリング(スコア化)という言葉を用いてきました(2015/10/72016/1/232016/6/17等)。

このスコアリングのための指標や評価基準にはさまざまなものが考えられますが、実務的によく使われるのが日本特許庁が作成した「特許評価指標(技術移転版)」(平成12年12月)です。経済的価値評価の代表的な手法であるインカムアプローチのなかでもロイヤルティ免除法は、例えば特許の場合には、その特許技術が移転・流通し、ライセンスの対象となり得ることを前提としています。そのため特許庁が産業界や金融関係者からの要望に応えて、特許技術の標準的な評価の手法として作成したものが、この特許評価指標(技術移転版)なのです。この特許評価指標に基づいて特許技術のスコアリングが可能になります。

大まかに表せば、この指標は下表のような評価項目(このほかにフェイス項目と総合評価があるが省略)について5段階評価を行ない、総合評価として、評価目的に応じて上記評価結果を総合的に判断するものです。特許評価指標(技術移転版)にはその評価方法が項目ごとに、より詳細に記載されています。

表 評価指標の主要項目

このようなスコア化アプローチは特許庁作成の評価指標に基づいているという点で、いわば官庁のお墨付きの手法に則ったものであるということができます。上記表のうち権利固有評価の各項目は、特許権の法的・手続的側面や特許技術の技術的側面から客観的に判断できるものです。しかし、移転流通性評価や事業性評価の各項目については、市場規模の推定を行ない、市場への参入に当たっての技術的・営業的・コスト的優位性を判断し、事業性評価に当たっての代替技術の存在の有無、事業性のリスクなど、もろもろの視点から考慮する必要があります。これらは特許明細書を読んだだけでは判断できない領域であり、5段階評価といえども、客観性(説得力のある理屈)を持たせるためには、業界・技術動向調査や、マーケット調査、当事者へのインタビュー・質問状などが欠かせないものとなってくるのです。