コラム COLUMN

知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドラインVer1.0の公表~5つのプリンシプル

更新日 : 2022.02.02

内閣府の知的財産戦略本部は表題の「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」の案を昨年12月20日に公表していましたが、その後、令和4年1月28日、パブリックコメントの結果を反映した「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」Ver1.0(以下、「本ガイドライン」ともいう)を公表しました。本ガイドラインは、コーポレートガバナンス・コード改定を受けて、「企業がどのような形で知財・無形資産の投資・活用戦略の開示やガバナンスの構築に取り組めば、投資家や金融機関から適切に評価されるか」について示すものです。これは、義務的な法令開示の枠組みづくりを目的とするものではなく、企業の自由度を確保した任意の開示を促すものだとされています。

2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、知財への投資に関して上場会社が考慮すべき姿勢が盛り込まれ、本コラムでもその後の「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」の動きについて紹介してきました。前回のコラム(2021年10月1日)では改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた対応として、
・上場企業による知財投資等についての開示(補充原則3-1③)
・取締役会による実効的な監督(補充原則4-2②)
という2つの補充原則を紹介しました。

今回は本ガイドラインに記載されている、5つのプリンシプル(原則)について紹介したいと思います。これは企業側にとっての4つの原則と、投資家・金融機関側にとっての1つの原則とに分かれます。
①「価格決定力」あるいは「ゲームチェンジ」につなげる(企業側)
・知財、無形資産を活用したビジネスモデルを積極的に展開し、安易な値下げを回避し、高い利益率を追求するための「価格決定力」につなげる。
・発想の大転換を伴うイノベーションによる競争環境の変革(ゲームチェンジ)につなげる。

②「費用」でなく「資産」の形成と捉える(企業側)
・知財、無形資産投資を「費用」でなく「資産」の形成と捉え、安易に削減の対象としないよう意識し、大胆な投資を推進する。
・イノベーションで新たな市場が確立されるまでの市場創成期においては、ある程度赤字を覚悟してでも大胆な知財・無形資産への投資を行わなければ、将来の企業価値向上は図れない。

③「ロジック/ストーリー」としての開示・発信
・ 企業は、自社の強みとなる知財、無形資産がどのように持続的な価値創造やキャッシュフローの創出につながっているかを「ロジック/ストーリー」として説得的に投資家や金融機関等に対して説明し、有意義な対話を進めていくことが求められる。

④全社横断的な体制整備とガバナンス構築(企業側)
・知財・無形資産の投資・活用戦略は、企業価値に大きな影響を与える経営マターであり、社内の幅広い知財、無形資産を全社的に管理し、知財、無形資産の投資・活用戦略を構築する全社横断的な体制を整備するとともに、取締役会がモニターするガバナンスを構築することが重要。

⑤中長期視点での投資への評価・支援(投資家・金融機関側)
・中長期的なESG(環境・社会・ガバナンス)課題の解決の観点から知財・無形資産投資を評価・支援する。

本ガイドラインは、大企業を中心とする上場会社の取締役や経営陣や、企業の知財・無形資産の投資・活用戦略を支える部門の方々が活用することを想定しています。また、中小・スタートアップ企業が、金融機関等と対話する際に活用したり、投資家や金融機関が企業と対話する際に活用することも期待されています。さらに、知財・無形資産の調査・コンサルティング会社や弁護士、弁理士、会計士等が本ガイドラインを活用することも期待されます。