コラム COLUMN

本業に貢献する知的財産 -技術の本質の追究―

更新日 : 2018.07.26

昨日、研修の一環で、元トヨタ自動車株式会社 知的財産部長(現(株)ワイゼル)青山高美氏のお話を伺う機会がありました。

「本業の成功とその持続に貢献する知的財産」の観点から知財活動を考察するには、その技術の本質を見極めることが重要であり、「なぜなぜなぜ・・・」と技術の本質(課題の解決原理)を追求して正しく認識しないと広く強い発明・権利が取れないことを、青色発光ダイオードなどを例に具体的に説明をしていただきました。

知財活動の使命は、企業活動の自由度の確保(FTOに近い考え方です)と企業価値の最大化に貢献することです。トヨタは出願の適正化(業務の改善)として本来尊敬される発明で特許を取るべきであるとして、自社だけでは解決できない、本業とは直接関連しない技術はあえて特許出願をせず、トヨタ技報などで広く公開するのだそうです。

トヨタはエコカー技術の開発でも、当該技術をグローバル規模で普及をさせるため、独占実施にはこだわらず、希望があれば積極的に技術供与(ライセンス供与)をしているとのことです。それにより自社の技術力、企業価値を外部にアピールすることになり、グローバル市場を拡大させ、結果的にハイブリッドカー市場の拡大につながるとしています。トヨタのオープン戦略の一つと言えましょう。

トヨタは米国での侵害訴訟も多く経験しており、”Both be patient”という米国弁護士の言葉を紹介して、お互いに我慢して歩み寄ることが交渉の場では大事だとのことです。紛争で最終決着をつけることにこだわるよりも、協調関係を築くことの方がはるかに有利なのだそうです。米国は訴訟王国でありさぞかし訴訟による決着件数が多いと思われがちですが、実際は判決よりも和解による決着の方がはるかに多いということです。交渉を数多く重ねた演者、企業ならではの実体験に基づくコメントでした。

グローバルビジネスサポート2018

更新日 : 2018.07.19

昨日は東京ビッグサイト(江東区有明)で「グローバルビジネスサポート2018」に参加してきました。これは日経BP社主催のイベントで、海外進出・展開によって新市場を開拓しようとする企業向けに情報やサポートサービスの収集の場を提供するものです。その中に知財関連の調査会社や、外国特許出願をサポートする企業、特許事務所などがブースを設けた一画があり、いろいろと情報を入手してきました。特許の価値を評価する際に、特許出願数だけではなく、その特許の被引用件数と対応外国出願数(GDPにより重みづけをしているとか)を組み合わせて、特定の出願人の特許の価値評価のスコアリングをしてマッピングをしている調査コンサルティング会社もありました。またIPランドスケープ等を取り上げた知財マーケティングセミナーも開催されていました。7月18日から20日まで開催されています。

知的財産デュー・デリジェンスの実態に関する調査研究報告書

更新日 : 2018.07.05

今年(平成30年)の3月に「知的財産デュー・デリジェンスの実態に関する調査研究報告書」が特許庁ウェブサイトに掲載されました。

これは平成29年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究のテーマの一つとして、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所が作成したものです。知財DDに関連する国内外の書籍・論文等の公開情報調査、日本国内の企業やアドバイザリー合計数百者に対する国内アンケート調査、そしてM&A等における知財DDの実施状況に関する国内ヒアリング調査を実施した結果をまとめています。

デュー・デリジェンス (DD)とは、「出資者 や提携を検討する事業者等(以下、併せて「出資者等」といいます。)の側 において、対象会社のリスク評価及び価値評価のための調査と検証を行うこと」を言います(同報告書p.37)。そして代表的な DDとして、法務DD、税務DD、ビジネスDD、財務DD、人事DDなどがあるなか、対象会社の知的財産活動について の調査 と検証 を行うことを知的財産デュー・デリジェンス( 知財 DD)と呼んでいます。例えば、事業展開をするにあたって第三者の特許権を侵害してしまうリスクの事前調査(Free-To-Operate調査、略してFTO調査)や、逆に他社にライセンスを供与できるという価値・アドバンテージを調査検証することが重要になってきます。

同報告書の要約版(p.14~16、18)では知財DDのプロセスを以下の5つのステップに分けています(一部表示を改変)。

Ⅰ.対象会社の価値源泉となる技術等の分析・・・企業情報データベース、有価証券報告書などを利用。

Ⅱ.対象技術等の利用可能性・利用可能範囲・・・出願書類、登録原簿、ライセンス契約書などを利用。

Ⅲ.対象会社の知的財産関連紛争の調査・・・訴訟記録、紛争一覧などに基づく。

Ⅳ.第三者権利の侵害リスク調査(FTO調査)・・・対象会社保有知財一覧、先行技術文献などを利用。特定技術を事業に利用した際に起こり得る、他社の知的財産権に対する侵害リスクの確認です。

Ⅴ.ガバナンス調査・・・知的財産管理規定、職務発明規定などを利用。出資等の際に対象会社において知財をどのような方針・体制で管理し、取り扱っているかについての調査です。

Ⅵ.価値評価・・・特許明細書、先行技術調査などを行なって評価。出資等の主たる目的が知財の取得である場合、知財の価値分析が行われるケースがあります。

この調査研究報告書の注目すべきところは、知財DDの標準手順書(SOP)及びその解説資料です。これは、「事業者がM&A等の際に、知的財産活動の評価のために一般的に必須とされる調査事項や、そのために必要な資料を把握できるようにすること」を目的として作成されたということです。実はこの標準手順書、作成にあたって「GitHub」というバージョン管理機能をもつWeb上の共同作業プラットフォームを使用して、オープン検証を実施して取りまとめられているのです。簡単に言えば、インターネット上のオープン環境で、多くの方々から、標準手順書の原稿の具体的な修正案を公募したのです。興味ある人がみんなでWeb上で編集したということです。「みんなつくろうsop」というわけです。

ところで、この知財DDのプロセスを見て気づいたのですが、実は、上記プロセスのステップⅠ~Ⅳ は、そのすべてではないにせよ、知財価値評価のプロセスの一部でもあります。特にステップⅠでは、価値源泉となる技術としてコア技術の特定をすることが知財価値評価の最初のステップになります(もっとも通常はお客様の方で特定のコア技術たる特許を指定してくださる場合がほとんどですが)。そのため私たちの知財価値評価サービスでは、コア特許技術の特定・評価のために、企業情報データベース、有価証券報告書だけでなく、出願書類や技術者へのインタビューを行なうこともあります。また、お客様によっては自社の知財部の管理体制の評価に興味をもたれる方がいらっしゃいます。「知財」価値評価ならぬ「知財部」価値評価とでもいうのでしょうか。これはちょうど上記のⅤのガバナンス調査に相当します。したがいまして、私たちの知財価値評価サービスは、そもそもⅠ~Ⅴのステップを踏んで進めていくのです。その点で、この「知的財産デュー・デリジェンスの実態に関する調査研究報告書」は知財価値評価に通じるものがあり、興味深いものがあります。

「平成30年度招へい研究者 研究成果報告会」に参加しました

更新日 : 2018.07.04

今日の午前は、知的財産研究所が主催する「平成30年度招へい研究者 研究成果報告会」に参加しました。「知的財産研究所」は、知的財産アナリストを認定する「知的財産教育協会」と同様に、一般財団法人知的財産研究教育財団の下部組織です。知的財産研究所では、特許庁から委託を受け、外国から研究者を招へいし、産業財産権に関する制度調和が必要となる課題について研究する機会を提供しており、今回のように招へい研究者 研究成果報告会を開催しています。

今日の報告者と研究テーマは、

・ Wang, Runhua(ワン・ルンファ)氏(イリノイ大学ポスドク研究員)

・ “The Distribution of the Value of Japanese Patents in the World”(世界における日本特許の価値の分布(仮訳))

です。6月上旬から7月上旬までの約1か月の招へい期間中の研究成果の発表です。

特許価値を評価するため、中国・米国・韓国・カナダ・ドイツ・日本の特許の統計を駆使して、後方引用(backward citations)の数、つまり、その出願の審査で参照された引用文献の数、前方引用(foward citations)の数、つまり、その出願を他の出願の審査で参照した被引用の数、クレームの数の増減等から特許価値との相関性を見ていこうとする研究でした。特許のビッグデータのパラメータを用いて特許の価値評価の判断基準を考える研究を外国の若い研究者が行っていること自体、興味深く、示唆の多い報告会でした。

イベント 『知財アナリスト大集合2018夏!』に参加しました

更新日 : 2018.07.02

きのうの日曜日は、毎年恒例となりました知的財産教育協会(AIPE)知的財産アナリスト運営事務局運営のイベント 「知的財産アナリスト大集合2018夏!」に参加しました。

知的財産アナリストとは、一般財団法人知的財産研究教育財団(FIP)に設置された「知的財産教育協会」(AIPE)が認定する資格の一つで、特許とコンテンツの二つの分野に分かれています。両分野を含め、現時点で700~800名ほどが知的財産アナリストの認定を受けており、知財の業界で活躍しています。

そして、毎年この季節になると、過去に知的財産アナリスト養成/認定講座(特許/コンテンツ)を受講したメンバーがこの「大集合201x夏!」のイベントに集まるのです。

今年は梅雨明け直後の真夏の日曜の午後にもかかわらず、93名のアナリストたちがお茶の水のデジタルハリウッド大学院の会場に集合しました。そして午後いっぱい、基調講演と有志の者たちによるプレゼンテーションが行われました。

昨年夏の日経新聞での報道もあってか、今年は「IPランドスケープ」と「知財経営」のキーワードが多く見受けられました。また、今年はコンテンツ系の出席者やプレゼンターも多かったようです。「IPランドスケープ」、「知財経営」にせよ、「コンテンツ」にせよ、最近登場した言葉ですので、もやもやっとした概念と思われがちですが、プレゼンターが各自きちんと定義をしていたため、すっきりとした印象を受けました。

最初のAIPEの事業部長によれば、IPランドスケープとは「経営者が企業戦略の策定や意思決定の質を高めるため知財情報を活用すること」と定義しており、これに対して知的財産アナリストがどのように向き合うべきかという課題に対し、「企業戦略の意思決定に役立つ情報を提供し、経営課題の解決への提案」を行い、「ビジネスインテリジェンスを行う企業風土を醸成する」ことであるとしています。

演台に立つ皆さん、さすが知財アナリストだけあって、3Cや5Force、PPMなどのフレームワークをさらりと使いこなしていました。有志の方々も知財部員,経営企画部員、調査会社員、営業部員等々、それぞれの置かれている立場や取扱い業務は違えども、知的財産アナリストとして培った能力・才能を活かした取り組みやノウハウを惜しげもなく披露してくださり、大変有意義なイベントでした。

アナリストの普段からの地道な活動の成果もあって、知的財産アナリストや知的財産アナリスト検定の知名度・認知度も上がってきています。実は先月弊所を訪問してくださった台湾の代理人(弁理士)の方もAIPEの知的財産アナリストの存在を知っていたのには驚きました。

このあと出席者らによる懇親会が行われました。