コラム COLUMN
知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドラインVer1.0の公表~7つのアクション
更新日 : 2022.03.09
先日は知財・無形資産のガバナンスに関するガイドラインに挙げられた、企業、投資家や金融機関に求められる5つのプリンシプル(原則)を紹介しましたが、同ガイドラインはこれに続いて、知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・開示・発信に向けて、企業がとるべき7つのアクションを提示しています。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/governance_guideline/pdf/shiryo1.pdf
(i) 現状の姿の把握
・自社の現状のビジネスモデルと強みとなる知財・無形資産の把握・分析を行い、自社の現状の姿(As Is)を正確に把握する。
(ii) 重要課題の特定と戦略の位置づけの明確化
・技術革新・環境・社会を巡るメガトレンドのうち自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定したうえで、注力すべき知財・無形資産の投資・活用戦略の位置づけを明確化する。
(iii) 価値創造ストーリーの構築
・自社の知財・無形資産の価値化が、どのような時間軸(短期・中期・長期)でサステナブルな価値創造に貢献していくかについて達成への道筋を描き共有化する。具体的には、目指すべき将来の姿(To Be)を描き、強みとなる知財・無形資産を、事業化を通じて、製品・サービスの提供や社会価値・経済価値にいかに結びつけるかという因果関係を明らかにした価値創造ストーリーを構築し、これを定性的・定量的に説明する。
(iv) 投資や資源配分の戦略の構築
・知財・無形資産の把握・分析から明らかとなった自社の現状の姿(As Is)と目指すべき将来の姿(To Be)を照合し、そのギャップを解消し、知財・無形資産を維持・強化していくための投資や経営資源配分等の戦略を構築し、その進捗を KPI の設定等によって適切に把握する。
(v) 戦略の構築・実行体制とガバナンス構築
・戦略の構築・実行とガバナンスのため、取締役会で知財・無形資産の投資・活用戦略について充実した議論ができる体制を整備するとともに、社内の幅広い関係部署の連携体制の整備、円滑なコミュニケーションの促進や関連する人材の登用育成に取り組む。
(vi) 投資・活用戦略の開示・発信
・法定開示資料の充実のみならず、任意の開示媒体(統合報告書、コーポレート・ガバナンス報告書、IR 資料、経営デザインシート等)、さらには、広報活動や工場見学といった機会等も効果的に活用し、知財・無形資産の投資・活用戦略を開示・発信する
(vii) 投資家等との対話を通じた戦略の錬磨
・投資家や金融機関その他の主要なステークホルダーとの対話・エンゲージメントを通じて、知財・無形資産の投資・活用戦略を磨き高める。
そして、上記の企業のアクションに加え、同ガイドラインは以下のように続けています。
投資家においては、各社固有の投資哲学に照らし、企業の知財・無形資産の投資・活用戦略の企業価値への貢献をどのように運用成果につなげられるか適宜検討し反映すること、このような評価や分析を行える人材育成と環境整備を行うことが求められる。金融機関においても、企業の知財・無形資産の投資・活用戦略を事業性評価に取り込み、融資判断を行うことができる人材育成と環境整備を行うことが求められる。
知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドラインVer1.0の公表~5つのプリンシプル
更新日 : 2022.02.02
内閣府の知的財産戦略本部は表題の「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」の案を昨年12月20日に公表していましたが、その後、令和4年1月28日、パブリックコメントの結果を反映した「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」Ver1.0(以下、「本ガイドライン」ともいう)を公表しました。本ガイドラインは、コーポレートガバナンス・コード改定を受けて、「企業がどのような形で知財・無形資産の投資・活用戦略の開示やガバナンスの構築に取り組めば、投資家や金融機関から適切に評価されるか」について示すものです。これは、義務的な法令開示の枠組みづくりを目的とするものではなく、企業の自由度を確保した任意の開示を促すものだとされています。
2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、知財への投資に関して上場会社が考慮すべき姿勢が盛り込まれ、本コラムでもその後の「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」の動きについて紹介してきました。前回のコラム(2021年10月1日)では改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた対応として、
・上場企業による知財投資等についての開示(補充原則3-1③)
・取締役会による実効的な監督(補充原則4-2②)
という2つの補充原則を紹介しました。
今回は本ガイドラインに記載されている、5つのプリンシプル(原則)について紹介したいと思います。これは企業側にとっての4つの原則と、投資家・金融機関側にとっての1つの原則とに分かれます。
①「価格決定力」あるいは「ゲームチェンジ」につなげる(企業側)
・知財、無形資産を活用したビジネスモデルを積極的に展開し、安易な値下げを回避し、高い利益率を追求するための「価格決定力」につなげる。
・発想の大転換を伴うイノベーションによる競争環境の変革(ゲームチェンジ)につなげる。
②「費用」でなく「資産」の形成と捉える(企業側)
・知財、無形資産投資を「費用」でなく「資産」の形成と捉え、安易に削減の対象としないよう意識し、大胆な投資を推進する。
・イノベーションで新たな市場が確立されるまでの市場創成期においては、ある程度赤字を覚悟してでも大胆な知財・無形資産への投資を行わなければ、将来の企業価値向上は図れない。
③「ロジック/ストーリー」としての開示・発信
・ 企業は、自社の強みとなる知財、無形資産がどのように持続的な価値創造やキャッシュフローの創出につながっているかを「ロジック/ストーリー」として説得的に投資家や金融機関等に対して説明し、有意義な対話を進めていくことが求められる。
④全社横断的な体制整備とガバナンス構築(企業側)
・知財・無形資産の投資・活用戦略は、企業価値に大きな影響を与える経営マターであり、社内の幅広い知財、無形資産を全社的に管理し、知財、無形資産の投資・活用戦略を構築する全社横断的な体制を整備するとともに、取締役会がモニターするガバナンスを構築することが重要。
⑤中長期視点での投資への評価・支援(投資家・金融機関側)
・中長期的なESG(環境・社会・ガバナンス)課題の解決の観点から知財・無形資産投資を評価・支援する。
本ガイドラインは、大企業を中心とする上場会社の取締役や経営陣や、企業の知財・無形資産の投資・活用戦略を支える部門の方々が活用することを想定しています。また、中小・スタートアップ企業が、金融機関等と対話する際に活用したり、投資家や金融機関が企業と対話する際に活用することも期待されています。さらに、知財・無形資産の調査・コンサルティング会社や弁護士、弁理士、会計士等が本ガイドラインを活用することも期待されます。
内閣府、今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について掲載
更新日 : 2021.10.01
内閣府の知的財産戦略本部は令和3年9月24日、「今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について~改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえたコーポレート・ガバナンス報告書の提出に向けて~」を首相官邸HPに掲載しました。
(1)競争優位の確立に向けた知財・無形資産の投資・活用戦略の意義
日本企業は、知財・無形資産の投資・活用を促すことにより、他社製品との差別化を図り、高い利益率につなげ、稼ぐ力を強化することが求められています。企業の取締役会も、経営における知財・無形資産の重要性を踏まえ、価値創造やキャッシュフローの創出の仕組みを把握分析して持続可能なビジネスモデルを検討することが不可欠です。欧米の優良企業は、知財・無形資産の投資・活用を通じて競争優位を確立し、製品価値を引き上げることで、高い利益率に結びつけている一方、日本では製品の販売価格は製造コストの1.3倍にとどまりG7諸国の中で最も低いことが指摘されています。こうした状況を踏まえ、今後、日本企業は、知財・無形資産を活用したビジネスモデルを積極的に展開し、製品・サービス価格の安易な値下げを回避し、高い利益率を追求して、企業価値の向上を達成していくことが重要な課題であると考えられています。さらに日本企業は、今後、知財・無形資産の投資・活用戦略を、資本市場で活動する投資家に対し説得力のあるロジックやストーリーとして開示・説明することが重要であると考えられています。
(2)改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた対応
2021 年 6 月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、上場企業は知財投資等についての開示(補充原則3-1③)や取締役会による実効的な監督(補充原則4-2②)を行うことが求められます。今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂は、企業に知財・無形資産の投資・活用に向けた取組を促していく上でまたとない好機とされています。上場企業に対しては、2021 年末までに、改訂されたコーポレートガバナンス・コードに沿ったコーポレート・ガバナンス報告書を株式会社東京証券取引所へ提出することが求められているので、早ければ来年の決算を踏まえた統合報告や IR 資料等に、知財・無形資産の投資・活用戦略の構築が盛り込むことが見込まれています。各企業がこうした対応について、「実施(comply)」とするか、「実施していない理由を説明(explain)」とするかは、各企業の判断に任されますが、本格的な知財・無形資産の投資・活用戦略の開示等に至っていないにもかかわらず「実施(comply)」という判断を行えば、投資家からは、不誠実な姿勢とみなされ、今般の知財・無形資産の投資・活用促進に向けた取組の趣旨に照らして好ましいものではないと釘を刺しています。
(3)知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた対応例
レポートに記載されたプロセスを列挙するにとどめます。
① 自社の現状のビジネスモデルと強みとなる知財・無形資産の把握・分析
② 知財・無形資産を活用したサステナブルなビジネスモデルの検討
③ 競争優位を支える知財・無形資産の維持・強化に向けた戦略の構築
④ 戦略を着実に実行するガバナンス体制の構築
これを機に、今後、上場企業各社のIR情報や知財報告書がどのように変化・充実していくか注視していていきたいと思います。
内閣府における知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会
更新日 : 2021.09.22
内閣府知的財産戦略推進事務局は、「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」を立ち上げ、令和3年8月6日(第1回)、8月30日(第2回)、9月8日(第3回)、9月22日(第4回)に検討会を行ってきました。委員にはブリヂストンやコニカミノルタ、旭化成等の知財部門の役職の方々や大学教授らが名を連ねています。
前回のコラムでも示したように、2021年6月にコーポレートガバナンス・コード(CGC)が改訂され、知財投資についての具体的な情報開示・提供、知財投資についての取締役会による実効的な監督といった原則が盛り込まれました。これは、知財投資活用戦略の開示やガバナンスの構築に企業がどのように取り組むべきかを示すためのガイドライン策定を目的の一つとしています。上場企業が2021年12月末までに、東京証券取引所へコーポレート・ガバナンスに関する報告書を提出することを見据え、2021年内にガイドラインをとりまとめる予定だとのことです。
今後もこの検討会の流れの中からCGCの知財投資・活用戦略に関連する事項について紹介していきたいと考えています。
改定コーポレートガバナンス・コードに知的財産の内容が加わる
更新日 : 2021.06.22
金融庁と東京証券取引所は6月11日にコーポレートガバナンス・コードの改定を行いました。
コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業が企業統治(コーポレートガバナンス)を行う際に参照すべき指針のことです。企業統治(コーポレートガバナンス)とは、会社が株主・顧客・ 従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みです。この仕組みを実現するために役立つ原則を取りまとめたものがコーポレートガバナンス・コードです。もともと2015年に金融庁と東京証券取引所が共同で策定し、2018年に一度改定され、今回2021年6月に2回目の改訂がなされました。
今回の改訂の主なポイントは、取締役会の機能発揮・人材における多様性の確保・サステナビリティ等とされていますが、今回初めて「知的財産」という言葉が加わりました。。
本コードは基本原則を、1.【株主の権利・平等性の確保】、2.【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】、3.【適切な情報開示と透明性の確保】、4.【取締役会等の責務】、5.【株主との対話】、の5つの章に分けて説明しています。この基本原則3.と4.において、「知的財産」という言葉が加わったのです。より具体的には、以下の通りです(下線付す)。
(1)上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。(補充原則3-1③)
(2)取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。(補充原則4-2②)
上場会社は、知的財産への投資の情報開示や取締役会によ実効的な監督が求められていくことになります。
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