コラム COLUMN

アヲハタ株式会社が「アヲハタ」の商標権を21億円で取得!

更新日 : 2018.10.24

アヲハタ株式会社が「アヲハタ」ブランドの商標権を21億円(消費税別)で譲り受けたという情報が、10月17日付の同社のIR情報に掲載されました。商標権の価値評価の算定書は株式会社大和総研が作成したとのことです。

「アヲハタ」はスーパーの食品売り場などで誰もが見かけるジャムのトップブランドの1つです。実は、この商標はもともと創業時からの株主である中島董商店が所有していたのですが、それを今回、アヲハタ株式会社が21億円(消費税別)で譲り受けたのです。これまでは、中島董商店からキューピー株式会社に商標の使用が許諾され、キューピー株式会社からその子会社であるアヲハタ株式会社に再許諾されていたとのことです。

上記IR情報によれば、「商標権などの知的財産権の評価において採用されることが多いロイヤルティ免除法を用いて商標権の価値を算定しております。当社が商標権を所有することにより将来にわたりロイヤルティ費用の節約が生じるところ、当社事業計画に基づき算出したロイヤルティ費用の節約額を、現在価値に割り引くことで、当該商標権の価値を1,987百万円~2,198百万円と評価しております。なお、商標権取得価額は、評価額の範囲内で中島董商店との協議により決定いたしました。」と記載されています。

「ロイヤルティ免除法」とか「ロイヤルティ費用の節約」とか「現在価値に割り引く」とかの表現を見ると、先日来から本コラムで紹介してきたインカムアプローチのエッセンスがまさに実業の場で説明されていることになります。知財価値評価がますます表舞台に登場してきたという印象があります。

アヲハタ株式会社は、今回の商標権の取得により、ジャム類に限らず新たな領域でも同ブランドを展開し、中長期的な収益力の向上を目指していくとのことです。知財価値評価をきっかけとして知的財産を企業の収益力の向上につなげていくという知財経営の一面を垣間見た気がします。

地域創生ビジネス交流会2018に出展しました

更新日 : 2018.10.19

昨日10月18日は、第一生命保険株式会社様主催の「地域創生ビジネス交流会2018~東京・首都圏と地方をつなぐ~」(TKPガーデンシティ品川)に出展しました。東京・首都圏並びに各地方の地域振興・経済活性化を目指して、首都圏のみならず東日本を中心とした各地域の企業様も出展する活気にあふれたビジネス交流会でした。弊所のブースでは、弊所の出願代理業務のほか、知財価値評価サービスの紹介をさせていただきました。外部来場者様だけでなく交流会の出展者様とも様々なビジネスのお話ができ、大変有意義でした。

 

インカムアプローチ・ロイヤルティ免除法・DCF法についての備忘録②

更新日 : 2018.10.11

先日のコラムに引き続き、インカムアプローチのうちロイヤルティ免除法をDCF法に基づいて計算する例を具体的に説明します。

2018年の売上高実績を1000、実質成長率を4%として、2019年から2023年までの将来5年間(n=1~5)の売上高予測が以下の表のとおりであるとします。単位は任意ですが仮に百万円としておきましょう。この売上高は評価対象の特許権が寄与する製品の売上高です。つまり、ライセンス対象事業の売上高です。また、その特許権が売上高に貢献すると予想される期間が5年であると仮定します。通常は、対象企業が導きだした売上高の将来予想があります。その将来予想が、対象製品の市場売上予測や対象企業の成長性と不合理な乖離がなければ、その売上高予測を使うことができます。

この売上高にロイヤルティ料率を乗じれば免除ロイヤルティRn(n=1~5)を求めることができます。ここでは日本の平均ロイヤルティ料率として過去のコラムで紹介した3.7%という値を使ってみましょう。ロイヤルティ料率の値を一定にしていますので、当然のことですが、予測売上高が上がるにつれ、同じ割合で免除ロイヤルティの額も上がっています。ここまでの計算過程を以下の表に示します。

ⓒ 2018 yukihiro ikeda

先日のコラムでの複利定期預金の計算例では簡単のため税金の計算は省きましたが、ここでは税引き後のロイヤルティ額R’n(n=1~5)を計算に用いることにします。仮に実効税率tを40%(t=0.4)としてみます。上記表の免除ロイヤルティRnに (1-t) = 0.6を乗じた額が税引き後の免除ロイヤルティR’nの額になります。ここまでの計算過程を以下の表に示します。

ⓒ2018 y.ikeda

次に割引率rを考えます。これは先日のコラムでは複利定期預金の金利との対比で説明しましたが、割引率は現在の金利よりずっと大きい値になります。割引率とは将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くためのパラメータであることは先日のコラムでも説明しました。そして割引率は、逆に、現在から将来に向けて考えれば、投資家が知財に期待する期待収益率であるとも言えます。通常、割引率として、対象企業の加重平均資本コストの値を用います。加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital)はWACCと略されます。WACCの平均値としてここでは例えば5.8%という値を用いることにします。この値は、「平成21年度 生命保険協会調査 株式価値向上に向けた取り組みについて」(社団法人 生命保険協会)p.11の【図表31:加重平均資本コストの水準(企業)】からの引用です。割引率rが5.8%、すなわち0.058ですから、割引現価係数1/(1+r)n の値は、2019年度、2020年度、2021年度、2022年度、2023年度の各年度(n=1~5)について、それぞれ0.945、0.893、0.844、0.798、0.754となります。ここまでの計算過程を以下の表に示します。

ⓒ2018 y.ikeda

次に各年度の「税引き後免除ロイヤルティR’n」の割引現在価値を求めます。「税引き後免除ロイヤルティR’n」に、その年度nの割引現価係数1/(1+r)n を乗じれば、各年度分の割引現在価値を求めることができます。

例えば2019年度の税引き後免除ロイヤルティ23.1を2018年現在の価値に割り引くには、23.1に2019年度の割引減価定数0.945を乗じます。その結果、2019年度の税引き後免除ロイヤルティの現在価値は21.8となります。また、例えば2020年度の税引き後免除ロイヤルティ24.0を2018年現在の価値に割り引くには、24.0に2020年度の割引減価定数0.893を乗じます。その結果、2020年度の税引き後免除ロイヤルティの現在価値は21.5となります。以下の表の赤枠とピンク色の表示を参照ください。

そして、2019年度から2023年度までの5年度分の割引現在価値(下表ピンク色表示)を合計すれば、将来の5年度分の免除ロイヤルティの現在価値PVを求めることができます。これを本件知財の現在価値とするわけです。その値は105、つまり1億500万円となります。

ⓒ2018 y.ikeda

インカムアプローチ・ロイヤルティ免除法・DCF法についての備忘録①

更新日 : 2018.09.12

先週、日本弁理士会の知財価値評価事業本部の研修に参加しました。ロイヤルティ免除法やフリー・キャッシュ・フローの簡単な計算演習もあり、知識の再確認をすることができました。

知的財産価値評価ではロイヤルティ免除法やDCF法という用語が出てきます。このコラムでもときどきこれらの用語が登場しますが、特に体系的な説明はしてきませんでした。詳細な説明は他の専門書に譲るとして、今日はこれらの用語について再確認したことを備忘録的に書き留めておきたいと思います。

ロイヤルティ免除法もDCF法も、知的財産のような無形資産の評価法の一つであるインカム・アプローチを採用する場合に登場する言葉です。

インカムアプローチとは

インカム・アプローチというのは、「将来のキャッシュ・フローの割引現在価値で示す評価アプローチであり、将来生み出されるキャッシュ・フローの割引現在価値のうち当該無形資産に帰属する価値をもって無形資産の価値とする」ものです(日本公認会計士協会経営研究調査会報告 第57号 「無形資産の評価実務―M&A会計における評価とPPA業務-」(平成28年6月14日、第33頁)。この説明だけでは難しいので、特許権のロイヤルティ免除法を例にとって、もう少し簡単に説明してみたいと思います。

ロイヤルティ免除法とは

インカム・アプローチの手法の一つに、「ロイヤルティ免除法」というものがあります。これは「免除ロイヤルティ」をキャッシュ・フローとして考えるインカム・アプローチです。「免除ロイヤルティ」とは、「もし自分がその特許権を持っていなかったと仮定したら特許権者である他者にロイヤルティを支払っていたであろうが、実際は自分自身が特許権者なので他者への支払いを免れたことになる、そのロイヤルティ」のことです。「免除」という言葉があるので、特許権者側から見た表現になっています。これではちょっとわかりづらいので、ライセンスを受ける実施権者(ライセンシー)の立場から表現すれば、「当該特許権を利用することによる将来予測売上高にロイヤルティレートを乗じて求めた予想支払ロイヤルティ額」ということになります(上記報告、第62頁)。

上記のインカム・アプローチの定義で言えば『将来生み出されるキャッシュ・フローの割引現在価値のうち当該無形資産に帰属する』部分が免除ロイヤルティに該当します。その割引現在価値をもって特許権の価値とするのです。

より具体的に説明すると、例えば1年後から5年後までの売上予想額の各々にロイヤルティ料率をかけて、1年後から5年後までの各年度のロイヤルティ(免除ロイヤルティ)の額を求めたとします。これがインカム・アプローチでいうところの「将来キャッシュ・フロー」となります。この免除ロイヤルティの1年目から5年目までの合計額が、大ざっぱに言えば、その特許権の価値を計算する基礎になると考えるのです。しかし、そのまま合計するわけにはいきません。求めた各年度の免除ロイヤルティを合計する前に、各々の金額を現在価値に割り引く操作が必要になります。

DCF法とは

この現在価値に割り引く計算手法をDCF法と言います。DCFとはDiscounted Cash Flowの略です。将来のキャッシュフロー(Cash Flow)を現在価値に割り引く(Discount)ことを表しています。今日のコラムではDCF法を、各年度のキャッシュフローを現在価値に割り引く計算手法のことを指す用語として用いていますが、DCF法を用いるインカム・アプローチの手法を「DCF法」とまとめて定義することもあります。この定義によれば、ロイヤルティ免除法も「DCF法」の一手法であるという言い方もできます。また、インカム・アプローチの他の手法である寄与率法や利益分割法のことを「DCF法」という場合もあります。混乱を招くので、今日のコラムでは将来のキャッシュフロー(Cash Flow)を現在価値に割り引く計算手法だと思っていただければ十分です。

現在価値に割り引くとは

さて、そもそも「現在価値に割り引く」とはどういうことでしょうか?会計の専門ではない筆者の言葉で大ざっぱに言わせてもらえば、例えば、1年もの、2年もの、3年もの、4年もの、5年ものと各年度ごとに満期が来る5つの複利の定期預金があったとします。その将来の元金と利子の合計額、すなわち元利合計FV(Future Value)だけが先にわかっているという状況を考えてください。この場合、例えば3年後の元利合計FV3が先にわかっていたとして、これから元金を求めることを考えます。

[元利合計FV3] = [元金] x (1+r)³

ですから、元金はその逆算として、1/(1+r)³ を掛ければよいので、

[元金] = [元利合計FV3] x (1/(1+r)³)

ですね。各年度の元利合計FVi(i=1~5)について、同様に金利r(一定)として複利計算の逆算(つまり1/(1+r)nを乗じる)を行なえば、5つの定期預金の割引現在価値、すなわち元金Pi(i=1~5)を求めることができます。それらを合計したものが、それら5つの定期預金の現在価値PV(Present Value)であるというイメージです。

ただし、DCF法ではrは金利ではなく割引率という言い方を用います。金利は将来に向けて複利で元金が増えていくイメージですが、割引率は元利合計から逆算して元金に相当する金額にまで減じるイメージから命名されているので、割引率という(減っていくイメージの)表現になっているようです。しかし割引率は、別の言い方をすれば、無形資産に対して投資家や債権者が収益を期待する「期待収益率」であるとも言えます。期待収益率という語感からすれば、金利と同様に増えていくイメージになります。結局、rを現在から将来に向けて考えるか(期待収益率)、将来から現在に向けて考えるか(割引率)で表現が変わるということです。実際には、割引率(期待収益率)は金利よりも大きい値となります。

さて、1年後から5年後までの各年度のキャッシュフロー(免除ロイヤルティ)を、各年度ごとに割引率rを用いて逆算します。各年度ごとにキャッシュフローを1/(1+r)n倍すれば割引現在価値となります。この1/(1+r)nを割引係数とか、割引現価係数と呼ぶことがあります。これらを1~5年分合計した額がDCF法を用いたインカム・アプローチでの価値評価となります。

下図は元利合計と将来キャッシュフロー、金利と割引率、元金と各期割引割引現在価値とを対比させて「現在価値に割り引く」を説明するものです。

 

ⓒ 2018 yukihiro ikeda

インカム・アプローチは評価対象である知的財産権の将来の経済的価値を把握したうえで現在価値に割り戻している点で合理的であると考えられ、会計の世界でも受け入れられやすいとされています。そしてロイヤルティ免除法は、知的財産権の将来のキャッシューフローを算定する際に基本的にロイヤルティ料率を考えれば済むという点で比較的簡単な手法です。また例えば特許権であれば、発明技術の優位性や特許性の強弱などに立ち入ってロイヤルティ料率を決定したり、商標権であれば標章の自他商品識別力やブランド力などに立ち入ってロイヤルティ料率を決定したりするので、弁理士による価値評価に向いているといえます。特許発明の技術的考察や登録商標の機能を考察せずに、財務諸表だけから無形資産の価値を評価する手法に比べると、説得性も出てくるのです。

経営デザインシートと知財のビジネス価値評価(知財のビジネス価値評価検討タスクフォースでの検討)②

更新日 : 2018.09.06

本日未明の北海道地震によりお亡くなりになられた方々にお悔やみを申し上げるとともに、被災された方々にお見舞いを申し上げます。巨大台風に続いての大震災という非情な災害の連続に驚いています。

今日は昨日のコラムからの続きです。昨日は経営デザインシートを記載するための事例演習を紹介しました。講師の仁科雅弘氏(内閣府参事官)がその事例について記載例を示し、写真撮影を許可してくださったので、以下にそれを再現します。これは、経営デザインシート(事業が1つの企業用)の雛形のパワーポイント版に仁科氏の記載例を当て嵌めて編集したものです。

内閣府ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/siryou3.pptx)の「経営デザインシート(事業が1つの企業用)」に仁科雅弘氏(内閣府参事官)の記載例を当て嵌めて編集(ⓒ 2018 y.ikeda)

なお、経営デザインシートの記載要領は内閣府のホームページにも記載されています。

内閣府ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/torimatome/design.pdf

この経営デザインシートはまだ発表されたばかりで活用して成功したという実績はこれからの話ですが、金融庁の地銀担当者も評価しているとのことです。経営デザインシートを作成していく途中で、ビジネスモデルや価値創造のための気づきと見直し、ヒントが得られると期待されます。