コラム COLUMN

経営判断に知財情報を活用しませんか?

更新日 : 2021.04.09

特許庁がIPランドスケープに関するウェビナー(無料)を公開します。

特許庁が、以下の通り、IPランドスケープに関するウェビナー(無料)を4月12日からYouTube等で期間限定で公開します。

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(以下特許庁のHPより)
日本企業を取り巻く競争環境が厳しさを増す中、経営層は、迅速・的確に経営判断を行う必要があります。
迅速・的確な経営判断には、客観的な裏付けが必要であり、公開情報たる知財情報は経営判断に有益な情報の一つであることから、経営判断に資する知財情報の活用(IPランドスケープ)が注目されています。
そこで、特許庁では、IPランドスケープを活用した経営の普及・定着に貢献することを目的として、IPランドスケープに関するウェビナー「IPランドスケープの活用に向けて」(無料)を4月12日から期間限定で公開することとしました。

公開概要
【日時】令和3年4月12日(月曜日)10時00分~令和3年4月30日(金曜日)16時00分
【開催形式】ウェビナー(※YouTube配信)
【主催】特許庁
【対象】経営者、事業責任者、IPランドスケープの担当者及び関心がある方等
【費用】無料

YouTube動画とPDFは4月12日10時00分~4月30日16時00分の期間のみ公開されます。
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IPランドスケープとは、知財分析手法を活かした知財重視の経営戦略のことです。もっと大まかに言えば、知財情報を経営に活かすことで「知財と経営を橋渡しする」ことです。本コラムでもIPランドスケープについて、いくつかの記事を紹介してきました。例えば「攻めの知財」のためのIPランドスケープでは、企業の知財部長様の言葉に言及しましたが、今回のウェビナーではその知財部長様を交えたパネルディスカッションもありますので、興味のある方はご視聴をお勧めします。

韓国の知的財産権金融の額が2兆ウォンを突破

更新日 : 2021.02.19

2021年2月4日の韓国特許庁のHPによりますと、韓国の知的財産権金融(IP金融)の額が2兆ウォン(約1900億円)を突破したとのことです。IP金融とは、知的財産権(IP)に基づいて資金を調達するもので、IPの評価を通じて金融機関がIP担保融資・IP保証融資・IP投資の類型で企業に資金を提供することです。韓国特許庁によりますと、IP金融の規模は全体として2019年に1兆ウォンを達成し、2020年には前年に比べて52.8%急増して2兆640億ウォン(約1970億円)を達成しました。金融の類型別で企業に供給された金額を見ると、知的財産権を担保にして実行するIP担保融資が1兆930億ウォン、知的財産権に基づいて保証書を発行するIP保証が7,089億ウォン、優秀な知識財産権を保有している企業または知的財産権に直接投資するIP投資が2,621億ウォンとなっています。

IP金融を拡大することにより、有形財産の担保が不足していたり、信用格付けが低くても、特許を基盤としてイノベーションを推進する中小・ベンチャー企業に資金を集中的に提供し、COVID-19で困難を極めている韓国企業の経営難克服に貢献しています。

韓国特許庁が紹介するIP担保融資の実例によりますと、中小企業G社は、COVID-19ワクチンの開発に関連する臨床試験に資金を必要としローン限度額の超過に苦しんでいましたが、遺伝子切断技術の特許7件を担保にして、運営資金20億ウォンの融資を受けワクチンの開発を進めているとのことです。

また、韓国特許庁が紹介するIP保証融資の実例によりますと、オンライン広告プラットフォームの開発スタートアップG社は、最近売上高が発生していないものの、オンライン評価を通じて発行されたIP保証書により銀行融資を受け、円滑な会社運営が可能になったとのことです。韓国特許庁等が、特許番号や権利者名を入力すると当該特許の定性的な特許分析評価が提供されるという自動価値評価オンラインシステムSMART3を開発したことは、本コラムでも2017年に紹介しました。このオンライン評価システムを活用した保証が2,500億ウォンに到達し、前年(1,730億ウォン)に比べて44.5%増加したとのことで、これは速やかな評価で資金を適時に確保しようとする需要が増えたためであると解釈されています。

信用保証基金・ソウル信用保証財団:SMART3評価システム(信用格付け評価)を活用したIPスマート保証を拡大
 技術保証基金:KPASⅡ評価システムを活用したIPファースト保証を運営

また、韓国特許庁が紹介するIP投資の実例によりますと、LED・半導体材料を生産する中小企業であるL社は、素材に関する特許の価値に基づいて、ファンドから、2013年に16億ウォンの投資を受け、2020年には太陽電池用材料(TMA)で世界1位の企業に成長したとのことです。

韓国特許庁の産業財産政策局長のPark Ho-hyung氏は、「IP金融が成長期に入っているため、金融市場内で自発的に成長していくことが重要だ」、「韓国特許庁は、金融市場に高品質のIP価値評価サービスを提供するなど、革新的な技術を持つ企業に対する金融市場の資金調達が活性化するよう、全力を尽くしていきたい」と述べています。

韓国・中国では知的財産権の価値評価に基づく融資・投資が盛んに行われており、うらやましい限りです。

中国で特許権や商標権を担保とする融資案件がますます増加

更新日 : 2021.02.03

本コラムでは中国での知財権担保融資が進んでいることを何度か紹介してきました(中国 深圳市で知的財産権金融連盟が設立中国 上海市で知的財産権の担保融資を促進するための協定が結ばれる中国、知的財産権の運用にさらなる推進策を打ち出す)。

最近また、中国で特許権や商標権を担保とする融資案件が増加しているというニュースが目につくようになってきました。中国中央政府だけでなく地方政府でも同様の動きがみられるようです。

2020年は中国全土で特許・実用新案・意匠・商標等の知財権を担保とする融資の総額は2180億元となり、2019年に比べて43.9%の増加だったとのことです(1月22日、国家知識産権局が開催した記者発表会による)。知的財産権担保融資は、不動産などの物的担保が不足している技術系中小企業の資金繰りを支援することが狙いであり、2019年8月20日に中国銀行保険監督管理委員会、国家知識産権局、国家版権局が「知的財産権担保融資推進活動のさらなる強化に関する通知」を共同で打ち出し、知的財産権担保融資の推進によってイノベーション型企業を後押しする方針を明確にしたとのことです。(出典:中国打撃侵権工作網 2021年1月25日

一方、中国の地方政府の動きとしては、浙江省において2020年の特許、実用新案、意匠担保融資の総額が2019年より132.29%増の401.07億元に達し、国内最大となったとのことです。融資を受けた技術系中小企業の数も同99.39%増の1317社となり、担保に使用された知財権は特許1542件を含めて計4772件とのことです。浙江省台州市の専利担保融資額も105.3億元に達し、初めて深センを抜き国内各都市の中でトップに立ったとのことです。2016〜2020年の「第13次五カ年計画」期においては、浙江省の専利担保融資総額が775.46億元、担保に使用された専利が1万3903件、専利担保契約の登録件数が3427件、融資を受けた技術系中小企業が3181社となっているとのことです。(出典:中国知識産権資訊網2021年1月27日)

上記2つの記事で開示された金額をまとめると以下のようになります。

中国全土

浙江省

憶元 前年比 億円 憶元 前年比

億円

2016~2018

202 3,228

2019

1,515 24,239 173

2,763

2020

2,180 +43.9% 34,880 401 +132.3%

6,417

775

12,407

(1元≒16円)

2020年の中国全土/浙江省の比率が2016〜2020年の浙江省の専利担保融資総額にも当てはめるものと仮定して単純計算すると、中国全土の5年間の融資総額は4,000億元(6兆4,000億円)を超える計算となり、年平均約1.3兆円という巨額になります。もっとも飛躍的に融資額が伸びたのが2019年8月の共同声明を受けてからと考えられますので、上記の計算はやや大げさかもしれませんが、2021年以降も中国における専利担保融資は安定的に伸びていくと予想されます。一党独裁で14億人に号令かけられたからこその成果なのでしょう。浙江省台州市は人口500万の中級都市で馴染みがないですが、「国内各都市の中でトップ」とは凄いです。

バイオベンチャー企業、「事業価値証券化」により総額250億円を調達

更新日 : 2021.01.15

山形県鶴岡市のSpiber(スパイバー)というバイオベンチャー企業が、「事業価値証券化」(Value Securitization)と呼ばれる資⾦調達⼿法によって総額250億円を調達したとのニュースがありました(News – Spiber株式会社2020年12月30日付、日経オンラインニュース2020/12/302021/1/92021/1/11)。「事業価値証券化」のスキームを通じて調達した資金は、米国の穀物メジャーであるArcher Daniels Midlandと共同で推進する人工タンパク質素材の米国における量産体制の構築、新素材の研究開発などに充当するとのことです。

Spiberは、人工タンパク質素材の開発研究・製造・加工・製品化を行う研究開発型のバイオベンチャーです。この人工タンパク質素材は、クモの糸などに含まれるタンパク質を発現するDNAを独自技術で合成し、それを微生物に組み込んで、グルコースなどの植物由来の糖類を醗酵させる(いわば醸造する)ことにより生産されることから、「ブリュード・プロテイン」(Brewed Protein)と名付けられています(いずれも登録商標)。当初は「QMONOS 」(登録商標)(クモノス)とも呼ばれていたようです。この素材は原料として石油を用いずに製造される成形材料でありながら、合成繊維やプラスチックと同様の性能を持つことから、SDG(持続可能な開発目標)の観点からも注目され、アパレルや輸送機器などの様々な産業分野において関心を寄せられています。

技術的・環境保全的観点からの魅力もさることながら、この度の話題で特に注目されたのは「事業価値証券化」(Value Securitization)という資金調達手法です。これは、特定の事業の将来の可能性(事業価値)を裏付けとして証券を発行し、投資家を募る資金調達手法です。三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社がアレンジャー(取りまとめ役)となり、国内の複数の機関投資家が参画しているとのことです。当社のアナウンスによれば、「本スキームは⼀般的なコーポレート・ローンとは異なり、当社の先進的な研究開発設備、及びタイ国における量産プラント等の有形資産に加え、当社の根源的資産かつ競争⼒の源泉である知的財産等の無形資産の価値を最⼤限活かし、⼤規模調達を実現するために設計されたもの」だとのことです。Spiberが鶴岡市やタイに保有する工場などの有形資産だけでなく、Spiberの技術力や特許や意匠・商標等の知的財産などの無形資産を含めて、一体的に事業価値を評価し、その価値を裏付けとして金融機関が証券化したということです。キャッシュフローCFそのものよりも、事業の可能性に主眼が置かれている点で、将来CFを裏付けとする事業証券化(Whole Business Securitization)とは若干趣が異なるように思われます。

Spiberは、10年以上も続けている特許出願等の件数も多く、ノウハウ化と特許権利化の仕分け、自社単独研究と共同研究の並行した展開等、オープン・クローズ戦略を駆使しており、Spiberが築き上げた知財等の無形資産の価値は極めて大きく、今回証券化の対象になった事業価値の大部分もSpiber社の高い技術力や知的財産などの無形資産だとのことです。いまだほとんど売上高がなく、一昨年度、昨年度と赤字が続いている状態にもかかわらず、巨額の意金調達ができたことはまさに驚きです。数年前に特許庁広報誌「とっきょ」2019年2・3月号が、「創業期こそ“知財”で差をつける!」としてこの企業を取り上げていました。米国では「企業価値≒知的財産」は常識であるにもかかわらず、日本で創業時点で知財戦略を意識していたベンチャー企業はわずか2割程度にすぎず、新しい発想や新しい技術を持ったベンチャー企業にこそ、自社のアイデアを知的財産権によって保護することが非常に重要であるとのことです。

日本において事業価値証券化という類稀なる資金調達スキームで巨額の資金を獲得したこの事例は、Spiber関山代表が上述の日経の記事で述べておられるように、「技術的な実証はできているが量産はできていない段階のスタートアップが、大きな先行投資を受けられる仕組みだ」として期待が寄せられています。

新年明けましておめでとうございます~政府の「知的財産推進計画2021」について

更新日 : 2021.01.04

新年明けましておめでとうございます。

昨年は大変な一年でしたが、当所では緊急事態宣言が発出されても、原則全員セキュアな環境下でのテレワークにより、つつがなく業務を遂行することができます。

昨年暮れの2020年12月21日、首相官邸ウェブサイトに、「知的財産戦略本部」による「構想委員会」において「知的財産推進計画2021策定に向けた検討」の第2回目会合(Web会議形式)が開催された旨が掲載されていました。その資料4に、知財投資・活用の促進メカニズムとしての知財価値評価に触れた記載がありましたので紹介いたします。

内閣府の知的財産戦略推進事務局は、知財の価値評価手法の検討として『ブランド価値評価研究会』(2002年経産省)から『知財のビジネス価値評価検討タスクフォース報告書』(2018年知財事務局)など、また、無形資産の見える化の検討として『知的資産経営』(2005年経産省)から『経営デザインシート』(2018年知財事務局)など、様々な検討を行ってきました。

無形資産(とりわけ知財)が企業価値に占める割合が増大し、「企業価値の源泉が有形資産から無形資産に変わってきている中、日本では無形資産が十分に評価・活用・獲得されていない」といわれています。「日本では依然として有形資産への投資のウェイトが高い」というのです。さらには研究開発費や売上高研究開発費比率についても、トヨタやソニーのような日本の大企業の開発費・比率が、Google社やApple社のようなGAFAのそれよりも小さいことが指摘されています。

これらの点に着目し、日本の産業競争力強化のため、「無形資産(知的財産)に基づく資金獲得を促すことで、無形資産投資や研究開発投資を増やし、イノベーションの創出を促せないか」ということで、知財と金融に関する取組みがなされてきました。これが過去5年間にわたり行われている「知財ビジネス評価書」や昨年度から始まった「知財ビジネス提案書」という特許庁の取組み『知財金融促進事業』です。民間の金融機関、例えば各銀行でも様々な制度を設け、有形資産の担保だけでなく、無形資産(知的財産)に基づいて、中小企業に融資しやすい環境を整備してきています。

国を挙げて「知財投資・活用の促進」を図ろうという潮流が一層高まっています。

私たちAIVASチームも、この流れが研究開発型企業や金融機関に留まるものではないと感じています。この数年、M&A仲介会社やM&Aに関与する企業、また特許やそれ以外の知的財産(例えば商標権や著作権に至るまで)を有する企業の方々が知財投資・活用に向けて、無形資産(知的財産)の適切な価値評価に関心を持たれてきていることを、私たちは肌で感じています。

私たちも適切な知財価値評価を通じてお客さまのお役に立てることを願っております。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。