コラム COLUMN
経営デザインシートと知財のビジネス価値評価(知財のビジネス価値評価検討タスクフォースでの検討)①
更新日 : 2018.09.05
昨日は日本弁理士会の研修「経営デザインシートと知財のビジネス価値評価(知財のビジネス価値評価検討タスクフォースでの検討)」に参加しました。内閣府知的財産戦略事務局参事官の仁科雅弘氏による講演です。今日の講演は東京会場だけでなく、日本弁理士会の全国支部にもTV会議システムにより中継される予定でしたが、日本列島を西から縦断している台風21号の影響で西日本支部への配信だけは中止となってしまいました。台風の被害に遭われた方々に対し、謹んでお見舞い申し上げます。
標記のトピックについてはすでにこのコラムでも数度にわたって紹介してきました(2018.03.01、2018.08.03、2018.08.15、2018.08.16、2018.08.17)ので、今回は研修のタイトルにある「経営デザインシート」の書き方について紹介します。経営デザインシートの記載要領は内閣府のホームページにも記載されているのですが、より具体的な書き方の例を事例演習として講師の仁科氏が示してくださったので、その内容を紹介したいと思います。
【事例演習】
或る酪農家が牧場を経営し牛を育てミルクを取り販売することを事業としています。企業理念は「健康な牛から安心・安全な乳製品を提供し、職場環境の保全にも貢献する。」、価値観は「牛と牧場で働く人の幸せを共に大切にする。」です。所有している牛の数は40頭、牧場の面積は60ヘクタール、搾乳施設を有しています。知財コンサルタントである貴方はその酪農家との対話により以下のことを知りました。これに基づいて貴方はどのように経営デザインシート(事業が1つの企業用)を作成しますか?
経営デザインシート(事業が1つの企業用)の雛形は下記の内閣府の関連ホームページから入手できます。雛型・事業が一つの企業用シート(PPT版)を選んでください(下図参照)。講師の仁科氏が記載例を示してくださり、写真撮影も許可してくださったので、その記載例は次回のコラムで紹介したいと思います。
[内部課題]
・高齢化による事業承継(息子に継がせたい)
・重労働/長時間労働
[外部環境]
・ミルクの価格の低迷
・外国乳製品の増加
・事業承継税制の改正(平成30年度税制改正による優遇のチャンス)
・食品安全性への期待(消費者意識が高まり、国の規制もある)
・働き方改革機運の向上
[対話によるヒント]
・周辺酪農家も上記と同様のことを考えている
・牛の健康状況や発情発見のノウハウをもっている(牛を病気にさせず、短い発情期間のタイミングを的確に把握して仔牛を生ませるプロセスを自動化できれば収益が上がるかもしれないと考えている)
・牛の健康状態は牛舎に備え付けたテレビカメラで撮影した画像で牛の様子を酪農家が見ればわかるというノウハウは持っている。そのための画像解析ツールもあるようだが使っていない。
・AI(人工知能)を使えば便利かもしれない
・搾乳機データ(牛からミルクを取る搾乳機に搾乳データ取出しの端子があるのだが使っていない)
[キーワード]
企業理念と価値観が示すキーワードとしては、「共有・共働」、「プラットフォーム」、「データ」、「体験・リアル」、「SDGs(持続可能な開発目標)」が挙げられています。
内閣府ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/siryou3.pptx)より入手
平成30年度招へい研究者 研究成果報告会~パテントリンケージ制度に関する比較研究
更新日 : 2018.08.31
昨日の午前は、知的財産研究所が主催する「平成30年度招へい研究者 研究成果報告会」に参加しました。「知的財産研究所」は、知的財産アナリストを認定する「知的財産教育協会」と同様に、一般財団法人知的財産研究教育財団の下部組織です。知的財産研究所では、特許庁から委託を受け、外国から研究者を招へいし、産業財産権に関する制度調和が必要となる課題について研究する機会を提供しており、今回のように招へい研究者 研究成果報告会を開催しています。
今日の報告者と研究テーマは、
・ Shin, Hye Eun(シン・ヘウン)(2001年よりソウル国立大学講師。2007年より忠北大学ロースクール教授)
・“Comparative Study on Patent-Approval Linkage System”『パテントリンケージ制度に関する比較研究』
7月上旬から9月上旬までの約2か月の招へい期間中の研究成果の発表です。
米国・韓国・日本、その他カナダ等、医薬発明の存続期間延長制度を導入している国の特許制度と医薬許認可制度のリンケージを比較しています。国によって製薬業界の状況や、新薬メーカとジェネリックメーカーとの力関係が異なるので、パテントリンケージ対応やジェネリック独占権(優先性)の考え方も各国ごとに異なることが、本研究者の比較研究から知ることができました。試験データ保護(deta exclusivity)やジェネリック独占権(generic exclusivity)は、直接的な知財権というわけではありませんが、特許権の独占権や排他権に関わり、製薬業界では特許の価値に大きな影響を与えるファクターです。
AIVASとは浅村知的財産価値評価サービスの略です
更新日 : 2018.08.28
は役務区分第36類 知的財産資産の財務評価等、第45類 工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務等について特許業務法人 浅村特許事務所が取得している登録商標です。
AIVASとは浅村知的財産価値評価サービス(Asamura Intellectual property VAluation Service)の略です。
実はこのAIVAS、2500年以上の昔からこの惑星に存在していました。といっても、SFファンタジー小説の中での話です。アン・マキャフリイ著「パーンの竜騎士」シリーズの第8巻~第9巻「竜の挑戦 上下」(小尾芙佐訳)早川書房(2001)に登場する人工知能音声応答装置(Artificial Intelligence Voice-Address System)、アイヴァス(AIVAS)のことです。原作第1話は1967年に刊行され、AIVASが登場するのは1991年のAll the Weyrs of Pernからです。今日は息抜きコラムとして、このAIVASについてお話をします。
AIVASを開発した人々の子孫でありながら、今では原始的な生活を送るこの惑星の人々、彼らから全く忘れ去られ、塵や火山灰に埋もれたままAIVASは悠久の時を待ち続けます。そしてあるきっかけで太陽電池のパネルに積もった塵が取り除かれ再起動し・・・
地球の人々が太陽系とは異なる恒星系の第3惑星パーンに移住してきたのは今から2500年以上も昔のことでした。しかしこの惑星パーンの移住者は、不規則な楕円軌道を描いて接近する赤ノ星から降り注ぐThread(糸胞)という有機体の襲撃によって悩まされ続けます。糸胞の襲撃は約200年の周期で50年間にわたって続くのです。この惑星には時空間を移動し人とテレパシーで意思疎通を図ることのできるDragon(竜)が住んでおり、その竜を操ることのできるDragonriders(竜騎士)が、いっしょに力を合わせてこの糸胞と戦います。
AIVASとともにこの惑星に入植してきた頃の科学技術はすっかり忘れ去られ、惑星への入植自体が伝説となってしまい、今では中世のような生活を送り続けているパーンの人々。物語の第1話はそこから始まるのですが、シリーズも終わりになってから、AIコンピュータAIVASが再起動し、パーンの竜騎士たちに、惑星入植当時の歴史から、今では失われた物理学・天文学・情報技術などのさまざまな知識を竜騎士たちに教えはじめます。竜騎士たちはAIVASから様々な科学技術・工学技術を学び、こうしてAIVASの助けを得て、竜騎士たちと糸胞との戦いは新しい局面を迎えます。
人々に知恵を与え戦いに新しい局面をもたらすAIVAS、弊所のAIVASもそうした存在となり、役割を果たしていけたら、と思います。
AIの助けを借りて生み出した発明の発明者と特許権の帰属
更新日 : 2018.08.24
今日の午前は、知的財産研究所が主催する「平成30年度招へい研究者 研究成果報告会」に参加しました。「知的財産研究所」は、知的財産アナリストを認定する「知的財産教育協会」と同様に、一般財団法人知的財産研究教育財団の下部組織です。知的財産研究所では、特許庁から委託を受け、外国から研究者を招へいし、産業財産権に関する制度調和が必要となる課題について研究する機会を提供しており、今回のように招へい研究者 研究成果報告会を開催しています。
今日の報告者と研究テーマは、
・Pratap Devarapalli(プラタプ・デヴァラパリ)氏(クイーンズランド工科大学(オーストラリア)在籍中)
・“Patent ownership rights on inventions developed by humans with the assistance of Artificial Intelligence”(人工知能の助けを借りて人が生み出した発明についての特許の帰属(仮訳))
です。7月下旬から8月下旬までの約1か月の招へい期間中の研究成果の発表です。
たとえば製薬会社が創薬予測モデルを使って新規薬物を開発したいと考え、AI会社にビッグデータを提供し、そのAI会社が効果的な薬物分子予測モデルのAIアーキテクチャを構築して、それに基づき製薬会社が医薬を開発した場合、発明者(inventorship)は誰になるか、特許権の帰属(ownership)はどちらになるのか(製薬会社側かAI側か)という問題があります。薬物分子創薬予測モデルのアルゴリズムを特許出願するのか、アウトプットとして得られた新薬化合物そのものを特許出願するのかによっても、inventorshipやownershipが変わるということになります。いろいろ考えるところの多い報告会でした。
内閣府による知財のビジネス価値評価検討タスクフォース報告書③~事業価値の定性評価と定量評価
更新日 : 2018.08.17
昨日のコラムに続いて今日も、平成30年の5月に発行された内閣府の「知財のビジネス価値評価検討タスクフォース~経営をデザインする~」の事業価値の評価(定性評価と定量評価)の内容について紹介します。
(ⅰ)事業の定性評価
事業の定性評価では、例えば、クオリティ評価とインパクト評価を行います。
1)クオリティ評価
ビジネスモデルの質をS/A/B/Cのランク付けにより段階的に評価します。具体的には、ビジネスモデルを実現するための戦略として自社が保有する資源・外部の資源をどう活用するか、市場性・革新性・社会性等の観点から事業を評価します。
2)インパクト評価
ビジネスモデルの量的イメージを掴むために、ビジネスモデルがどれだけの規模のインパクトを市場や自社に与えるかについて、投資額・リターン・持続期間等を組み合わせてレンジの評価(何桁規模なのかなど)をします。
(ⅱ)事業の定量評価
事業価値を定量評価する方法としては、インカムアプローチが一般的に用いられます。将来の事業計画から見込まれる将来キャッシュフローをリスクに応じた割引率によって割り引くことにより現在価値を求めます。
この将来キャッシュフローの算定にあたり、事業の持続性・成長力に関連する要素として、経営者のビジョン・企業理念、長期的な事業計画、人的資源等の内部環境、技術変化等の外部環境などが挙げられます。
割引率の算定にあたって、リスクとなり得る要素としては、ガバナンス等の内部環境、制度改正等ルール変更、訴訟、為替・金融・経済リスク、技術変化等の外部環境などが挙げられます。
事業価値を評価した結果を外部に示す場合、外部とのコミュニケーションを円滑にするために、これらを企業内でどのように認識し、対処しているかについても示すことが望ましいとされています。
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