コラム COLUMN
内閣府による知財のビジネス価値評価検討タスクフォース報告書②~企業の持続的イノベーション
更新日 : 2018.08.16
昨日のコラムに続いて今日は、平成30年の5月に発行された「知財のビジネス価値評価検討タスクフォース~経営をデザインする~」の内容にもう少し立ち入ってみます。
企業が持続的にイノベーションを生み出すためには、自社の資源がどのように価値を創造するのかを考えて「経営をデザインする」ことが求められています。しかし、知財の価値評価は、ビジネスと十分に関係づけて適切に評価されていなかったといいます。知財が経営戦略資源の1つとして新たな経済的価値を創出することを前提に、「知財のビジネス価値」から知財価値を評価する方法を検討したのが本報告書です。
企業戦略は20世紀型モデルから21世紀型モデルへ変わってきたといいます。知財戦略の観点から見てみますと、20世紀型モデルでは特許の取得重視、自前主義が前提でした。特許出願の件数の高さを競い、原料・部品から完成品に至るまで製造のプロセスをすべて自社でまかなうことを是としていました。ところが、社会・経済環境が変化した21世紀モデルでは、「無形資産を企業成長を牽引する経営戦略資源の重要なファクターであると考え、知財は企業戦略・事業戦略に従って戦略的・積極的に活用すべきものであるとしています。企業は持続的成長のため、変化する環境を踏まえてデザイン思考でビジネスを創り出し、イノベーションを起こしていく必要がある。」と本報告書は主張します。
経営資源を投入して価値を創造する経営の仕組みを「価値創造メカニズム」と捉え、そのメカニズムを見える化するために、「経営デザインシート」を本報告書は提案しています(下図参照)。これはシートの上部に基本事項を記載し、左部にこれまでの価値創造メカニズムを、右部にこれからの価値創造メカニズムをそれぞれ記載するとともに、下部に左部から右部の価値創造メカニズムに移行させるための戦略について記載するというものです。これからの価値創造メカニズムを考えるための一種のフレームワークと言えるでしょう。
内閣府による知財のビジネス価値評価検討タスクフォース報告書① ~経営をデザインする~
更新日 : 2018.08.15
平成30年5月に「知財のビジネス価値評価検討タスクフォース~経営をデザインする~」という報告書が内閣府のHPにアップされました。
内閣府の政策に「知的財産・クールジャパン」というものがあり、その中の施策の一つが平成15年3月に設置された「知的財産戦略本部」です。これは、『内外の社会経済情勢の変化に伴い、我が国産業の国際競争力の強化を図ることの必要性が増大している状況にかんがみ、知的財産の創造、保護及び活用に関する施策を集中的かつ計画的に推進するため』のものです。
そしてこの「知的財産戦略本部」のもと、「検証・評価・企画委員会」として『知財のビジネス価値評価検討タスクフォース』といういわば下部組織が存在します。
このタスクフォースは、渡部 俊也 東京大学政策ビジョン研究センター 教授を座長として、「知財を含む無形資産の見える化」、
「知財のビジネス上の価値の評価」、
「評価結果の活用等」
について検討すべく、平成29年11月から平成30年4月まで7回開催されました。途中経過の報告会が今年の3月に行われたことはこのコラムでも紹介しました。
そしてその最終成果を報告書としてとりまとめたものが、今年平成30年の5月に発行された「内閣府のHPから知財のビジネス価値評価検討タスクフォース~経営をデザインする~」です。
韓国特許庁、特許実施契約の実態調査の結果を発表~韓国と日本の平均ロイヤルティ料率はそれぞれ4.75%と3.7%
更新日 : 2018.08.07
韓国特許庁(KIPO)が特許実施契約の実態調査の結果を発表しました(情報元:韓国知的財産ニュース 2018年7月(後期)(No.371)2018/8/1 JETROソウル事務所知的財産チーム)。
これは韓国知識財産研究院がKIPOに実施権を登録した企業のうち、5,400社を対象にアンケート調査を行い、回答した703社の直近5年間の実施契約1,053件を分析した結果をKIPOが発表したものです(2018.7.24)。
他企業の特許を使用する場合、平均として売上高の4.75%を対価として支払うとのことですが、上記の情報元の記事によれば、このロイヤルティ料率(実施料率)は、米国の7.04%より低く(2007 AUS Consulting、3,015件分析)、日本の3.7%よりは高い(2010経済産業省、680件分析)となっています。日本の値は、本コラムでも紹介した「ロイヤルティ料率の国内における調査結果」や「ロイヤルティ料率データハンドブック」の中の技術分類別ロイヤルティ料率の平均値の表のうち全体平均(件数680件)から取ってきた値のようです。
産業界全体を対象にアンケート調査を行って得た現実的で最新のロイヤルティ料率の統計ということで極めて価値の高い情報と言えるでしょう。
弁理士会研修 「知財価値評価の現状と、知財経営センターにおける知財価値評価への取組み」
更新日 : 2018.08.03
昨日は知財価値評価に関する弁理士会研修に参加しました。
日本弁理士会には各種の委員会や付属機関があります。知的財産経営センターもその一つで、知財経営をワンストップで支援することを目的として、知財経営に関連する各種委員会・附属機関を統合した組織として2017年4月に新設されました。これはさらに3つの本部に分かれ、そのうちの一つが知財価値評価事業本部です。ここでは知財価値評価の手法を研究し、弁理士による知財価値評価業務を支援しています。昨日の研修はこの知財価値評価事業本部のメンバーによる座学研修でした。知財経営センター概要、評価人候補者制度、知財価値評価の概要、知財ビジネス評価書、経営デザインシート、米国における知財評価の動きについてお話を伺いました。
M&Aの会計処理では資産額と売却額の差を、昔は「のれん」と一括りにして呼んでいましたが、新しい会計基準の下では、のれんのうち定量化・可視化・数値化できるもの(例えば特許・商標・ソフトウェア等)は数値化して財務諸表に載せることになっています。しかし会計処理の世界で行われる知財の価値は超過収益法といって、経済的利益から人的資源、顧客リストなどの有形資産から期待される貢献利益を差し引いて残ったものが知財の価値に相当するであろうという算出法を採っているので、ある意味ざっくりと計算しているのが現状とのことです。知的財産を一つひとつ中身にまで立ち入って見ているわけではないのです。知的財産の一つひとつ、例えば特許技術の内容にまで立ち入ってその価値を判断し、経済的価値に反映させるのは、弁理士ならではの仕事だと言えます。
2000年の初め頃、知財金融という考え方がありました。このころの知財金融は知財、商品在庫、売掛金などの動産を担保として融資をするという考え方で、経済産業省も推奨していました。しかし知財を担保にとっても、それ自体換金がほぼ不可能で、その価値評価も難しく、また金融庁側の協力も得られなかったことから、知財金融は下火となってしまったのです。そうしたなか、知財金融が新たにその意味を変貌させて再開した背景には、2013年の政府による日本再興戦略(JAPAN is BACK)において中小企業・小規模事業者の革新、地域金融機関による地域密着型金融の促進が挙げられます。これを受けて金融庁が平成26年(2014年)に、金融モニタリング基本方針として地域金融機関が外部専門家等を活用しながら企業の事業性(つまり企業の事業の内容や成長可能性)を評価したうえで必要な支援を行っていくべきであることを唱え、そして平成27年(2015年)に、金融行政方針において地域の経済・産業を支えていくために事業性評価を行って地方創生に貢献すべきことを再度唱えたのです。一方、特許庁も中小企業対策の一環として、平成27年度から、金融機関からの申請によって知財ビジネス評価書を作成し金融機関に提供する支援を行い始めました。この知財ビジネス評価書は金融機関の支援としてだけではなく、企業のいわば診断書として機能し、企業支援・事業支援につなげていくことができるのです。金融機関に対するアンケートによれば、行員たちも技術内容を把握した上で積極的に支援に関わりたいというニーズがあることがわかり、このニーズにマッチした制度であるということができます。
平成30年5月に内閣府知財戦略本部が知財のビジネス価値評価検討タスクフォースを立ち上げ、経営における知財の位置づけの明確化を目的として報告書を作成しました。この話は3月に本コラムでも取り上げました。5月に発行された報告書の中で、「経営デザインシート」という、一種のフレームワーク的なシートの作成を提唱しています。事業のビジネスモデルの設計と見直し等のメリットを狙ったものです。その詳細は9月に行われる内閣府参事官による研修会で話がされる予定で、このコラムでもまた取り上げていきたいと思います。
米国では企業価値のうち無形資産が占める割合が有形資産に比べ圧倒的に大きくなってきています(2015年で84%)。米国の無形資産評価は会計士やASA(米国鑑定士協会)が行っています。ASAによる資産評価についてはこのコラムでも、2016年の2月と10月に触れています。無形資産に対する注目度は日本とは比べものにならないほどなのだそうです。
今回の研修は知財価値評価の評価人候補者だけを対象としたものではなく、広く弁理士一般にまで対象者を広げています。そのためもあってか、今まで本コラムでも折に触れて言及してきたトピックをいわば価値評価の初心者にもわかるように話がされました。知財価値評価のすそ野がまだ広がっていないため、少しでも多くの弁理士に本業務に関心を持ってもらおうとするための研修であるというわけです。
このコラムも知財価値評価のすそ野を広げることに少しでも役に立てれば光栄です。
インドの最高裁判決~ローンを銀行への商標権譲渡で相殺できるか?
更新日 : 2018.07.27
インドでの最高裁判決です(Canara Bank v. N G Subbaraya Setty & Anr 20 April, 2018)。銀行(Canara Bank)から信用貸付を利用していた個人(Settyさん)が、返済(870万円弱)が不能になったので、自身の持つ線香の商標“EENADU”を銀行に譲渡したとのことです。10年間にわたって銀行側が毎月76000ルピー(約123000円)から83600ルピー(約136000円)をSettyさんに支払い、毎月40000ルピー(約65000円)の金額をローンから相殺する、銀行は第三者に当該商標の使用を許可しロイヤルティを得ることができる、という契約だったそうです。しかし、その後、銀行側が銀行規制法 による禁止条項を理由に当該契約を取消したため、Settyさんはこの取消しを不当とし、銀行を相手取り訴訟を提起しました。銀行側は当該譲渡は誤認、不当威圧、欺罔により無効であると主張しましたが、Settyさんの勝利となり、その後Settyさんは、譲渡により生じた一定額の返還を求めて別訴訟を提起し、第一審、第二審とも原告勝訴に終わり、銀行側はインド最高裁に上告しました。結局、最高裁は銀行の主張を受け入れ、当該商標の譲渡の有効性を否定し、インドでは担保の換価に関連する場合を除き、直接的にも間接的にも物品の販売もロイヤルティ獲得もできず、商標権の譲渡がそもそも銀行規制法に違反すると判示しました。インドでは銀行ローンを銀行への商標譲渡で相殺することはできないということです。誤認等による商標権の譲渡だったとはいえ、銀行側がどのようにして当該商標権の経済的価値を評価したのだろうか、ここにも知財価値評価の一局面があったのだろうか・・・と気になったので紹介することにしました。
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